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15 カルタヘナ奇襲-8

「なんと言うか、案外あっけなかったな」


「あ、あぁ」


トーマスと俺は真っ黒に焦げた敵戦車の残骸を眺めながらそう言いあう。

ぼんやりと夜の闇に浮かび上がる鉄の塊はどこか不気味だ。


(戦車単独での突撃は無謀なのかもしれないな)


大隊本部から連絡があってから、2時間程で敵戦車は戦車部隊単独でこちらの陣地に突入してきた。


橋頭保に帰投してきた第三中隊の連中によると、最初は歩兵随伴でこちらに向かってきていたらしい。

だが、街道脇に退避した第三中隊の反撃で行き足の鈍る歩兵たちに業を煮やしたのか、戦車部隊のみでこちらに突き進んでいったそうだ。


(そしてその結果がこれだ)


敵戦車がつっこんで来ると聞いて俺たちは、急いで障害物の設置や火炎瓶の作成などを行った。

街道をふさぐように設置した丸太などの障害物はなんの効果もなかったが、火炎瓶は驚くほどよく効いた。


戦車の前に生身を晒しての攻撃など自殺行為だと思っていたのだが、どうやらこちらが思うより戦車というのは視界が悪いらしい。


目くら撃ちをするばかりで、こちらの姿をほとんど捉えれていないようなのだ。


『どうもこっちがあんまり見えてないんじゃね?』と、皆が考えてからはひどかった。


敵のペリスコープや銃眼に小銃を集中射撃。


中には業を煮やしたのかハッチを開けて外を確認しようとした敵戦車もいたが、その短気な敵戦車搭乗員は死神の抱擁を得ることになった。


「しかし、なんでそんな急いで突っ込んできたんだろうな?」


「うーん、夕暮れも近いし今しかないっておもったんじゃね?」


(言われてみればそれもそうか)


敵戦車が突っ込んできたときも、すでに太陽はかなり傾いてきていた。

もし敵が歩兵をまっていたらそれこそ夜襲に近いものとなっていたことだろう。

敵司令官もその辺りを総合判断した上で突撃を敢行したに違いない。


(だが、結果は残酷だったわけだ)


海岸に続く一本道は細く、見通しもわるい。

太陽も傾いてきており、その視界のわるさに拍車がかかる。


もしこれが曲がり角もない一本道なら、戦車はその速度を活かして俺たちを振り切って橋頭保に突入出来ていたかもしれない。


だが、キツイ曲がり角が今回の道にはいくつかあった。

そして運わるく先頭車両が火炎瓶を被弾、程なくエンジンに引火、擱座してしまう。


当然、後続車両は玉突き状態となり身動きができなくなる。


そうやって立ち往生してしまった戦車部隊はただの的に成り果てたのだ。


「しかしゾッとしねぇな」


「あぁ、戦車兵ってのは歩兵よりも悲惨かもな」


炎にまかれ、全身やけこげた敵戦車兵の遺体がところどころに転がっている。

遺体によっては額に穴が開いてるものもある。


あまりの惨状を見かねたSSの兵がトドメをさしてやったのだ。


(敵とはいえ、どうにかしてやりたい気持ちはあるが・・・)


今回の敵戦車部隊は運よく撃破できたが、次も上手くいくとは限らない。

というか、上手くいかないだろう。

明日も爆弾が降ってきて、トドメに歩兵と一緒に戦車が突っ込んできたら間違いなくもたない。


俺たちSS海兵第1大隊は壊滅することになるだろう。


ではどうするか?


(勝てないなら逃げるしかないわな)


俺たちは当初の予定を繰り上げ、今日中の撤退を行うこととなった。


夜間の撤退である。

当然リスキーなものとなる。


大隊本部でも『いくらなんでも夜間は危険すぎる』といった意見が出たらしいが、実際に橋頭堡を攻撃する敵軍との戦闘をした第1中隊の中隊長が『明日の朝では遅すぎる!』と強硬に主張したらしい。


それでも訓練でも実施したことが無い作戦となることに、反対の声は最後まであったらしいが、実際に敵と戦い、敵の意志の硬さを生々しく実感した現場指揮官の意見が最終的に優先されることとなった。


母船側に伝えたところ、当初は渋っていたらしいが、揚陸艇の操縦手達が『これだけ何十往復もしてりゃ目つぶってでも岸までつけるわ!』と案外強気だったことから、母船側も最終的にゴーサインを出したらしい。


そんなこんなで俺たちSS海兵第1大隊は急速に撤収作業を行なっていた。


敵追撃部隊との戦闘をし、さらには山越えで橋頭堡まで戻ってきた第3中隊から順次撤退を開始。


(あいつらボロボロのボロだったな・・・)


戦車の横でニヤニヤしていた余裕はどこへやら、皆死んだ顔をして揚陸艇に乗り込んでいた。

死んだ顔をしている奴はまだマシな方で、死傷者もそこそこ出たらしい。


そして奴らが乗った後は、第一中隊の第2、3小隊が乗っていった。


「俺たちラッキーなのかアンラッキーなのかどっちなんだろうな?」


「さぁ、だが残り物には福きたるっていうぜ?」


俺たち第一小隊は戦場運に恵まれたのか、敵陣地攻撃でも敵戦車部隊との交戦でも大きな被害が出ていない、というより大きな戦闘をしていない。


そんなわけで、俺たち正真正銘のしんがりをするハメに陥っていた。


「そうだったらいいがな」


「そうか?ほらよっと!」


そういうとトーマスは俺に何かを投げてきた。


「な、なんだ?って 重っ!」


キャッチした俺はその意外な重さに思わず取り落としそうになる。


「クラウス、ありがたく受け取れよ?多分これスペイン金貨だぜ?」


「お、おい!トーマス!これはマジでまずいぞ?!」


「なに、これくらいの役得がないとやってらんないぜ。別に誰から略奪したわけでもないんだぜ?たまたま海岸まで行ったら、たまたま落ちてた金貨があって、たまたまそれを拾っただけだぜ?」


(嘘をつけ!)


「おい!お前ら!」


なおも追求しようとした俺だったが、後ろから響くいつものドラ声に慌てて金貨を胸ポケット仕舞い込む。


「なにうろうろしてんだ、ようやく俺たちの番が来たぞ」


「「了解です!」っす!」


分隊長に呼ばれ、俺たちは戦車の墓場を後にするのだった。


ふと、空を見ると東の方はうっすら白み始めていた。









次回でやっとカルタヘナ編(?)はひと段落です。

こんなに長くなるとは思ってなかったです。

あと1話お付き合いください。


あと、今週忙しくて2日に一回の投稿となるかもですm- -m

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― 新着の感想 ―
おっ、金貨に弾が当たって助かるに一票!
随伴歩兵のいないWoTや戦車道の世界なら敵に勝ち目あっただろうね。
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