13 カルタヘナ奇襲-6
「おいおいあれはまずいんじゃねぇか?」
トーマスが焦った声を出す。
「あぁ、マジで俺たちやばいかもしれないな」
頭上を敵と思しき爆撃機が通り過ぎてからしばらくたった。
(狙いが俺たちじゃなかったのは幸いだったが・・・)
俺たちの頭上に爆弾は降ってこなかったが、代わりに橋頭堡がやられたらしい。
橋頭堡の方角から黒煙が上がっているのがかすかに見える。
末端の俺たちには損害状況なんて分からないが、橋頭堡が攻撃される重大さくらい誰にだって分かる。
(みな不安な顔をしているな)
周りを見渡すと分隊の仲間も多くも動揺しているようだ。
敵に反撃するペースも明らかに落ちている。
(無理もないか)
橋頭堡が攻撃されて被害が出ているということは、弾薬食料などの補給物資もやられている可能性がある。
補給が次いつくるかも分からないし、十分な量がくるかも怪しい。
『弾が切れるかもしれない』なんてことが頭を過ぎると自然と引き金を引く指も鈍ると言うものだ。
結果、敵へのプレッシャーが低下する。
(これマジでよくないぞ)
こちらからの圧が弱くなるのと反対に、敵からのプレッシャーは増している。
敵の爆撃機がこちらの陣地を爆撃したのは敵も気付いているのだろう。
明らかに攻勢が苛烈さを増している。
「おい、お前たち伝令だ!クソッタレの中隊本部からだ。作戦に変更はないとのことだ」
「待ってください、分隊長!流石に無謀では?!」
思わず俺は分隊長に意見する。
敵の攻勢が激しく気付かなかったが、中隊本部から伝令が来ていたらしい。
「うるさい!貴様らも腹をくくれ!このまま後退なんぞしたら最悪の撤退戦をする羽目になるぞ!もうやるしかないんだ!」
「し、しかし・・・」
そう言って俺はなおも反論しようとしたとしたが、俺の言葉は凄まじい爆発音で遮られた。
「な、なんだ?!」
敵の後方が爆発音と共に一斉に光と煙に包まれる。
しかも一度などではない。
間髪入れず次から次へと閃光が瞬く。
「重砲だ・・・」
蒼白な顔で分隊長が呟く。
「重砲•••ですか?」
俺は真っ青な顔をした分隊長に尋ねる。
分隊長は前大戦にも従軍していたらしい。
よくそのことを誇らしげに語っていた。
『従軍したと言ってもただの伝令兵だったらしいがな』と、何処から情報仕入れてきたのかトーマスはそう言って白目をしていたが・・・
「あぁ、間違いない。7.5cm級どころじゃない。あれは12cm級以上だ。数も1個中隊どころじゃないぞ。どう少なく見積もっても大隊規模以上だ・・・」
どうやら戦場に出たことがあるのは本当らしい。
そう語る分隊長の声は恐れ混じりの実感のこもったものだった。
「でも、分隊長殿。そんな砲兵何処から湧いてきたんでしょうか?」
そんな大規模な砲兵部隊をこんな短時間に展開はできないだろうし、そもそもの話としてSSにそんな砲兵部隊はまだ存在しない。
「艦砲射撃・・・・」
ポツリとトーマスが口をはさむ。
「あぁ、そうだろうな」
分隊長も首を縦に振ってそう答える。
「これが艦砲射撃・・・」
気づけば敵も味方も銃撃をやめている。
敵後方への猛烈な射撃に肝を潰しているようだ。
(・・・一歩間違えたら俺たちが浴びる立場だったのか)
俺も不意にそんなことを思い背中を冷たい汗が流れるのを感じる。
今回の作戦にはライヒの軍艦は参加していなかった。
イタリア王国の軍艦も当初は参加する予定ではなかったと、この前小隊長が喋っているのを小耳に挟んだ。
もしイタリア王国海軍が参加していなければ、スペイン海軍が出張ってきて艦砲射撃をしてきたかもしれない。
『スペイン海軍など、大型の艦はルフトバッフェの攻撃により無力化されていて恐るるに足りない。』
『万が一やって来たとしても稼働艦を数隻引っ張ってこれるかどうかというところだろう。』
そんな気楽なことを言っていたが、目の前の惨状はイタリア海軍の数隻の小型艦で実施されていることなのだ。
(数字の上での数隻と実際の戦力のインパクトが違いすぎるだろ・・・)
自分たちがどれだけ薄氷の上で作戦を実施していたのか改めて実感する。
「総員着剣!」
不意に分隊長の掛け声がかかる。
「え?」
「クラウス!何をぼやぼやしてんだ!支援砲撃の後は突撃して敵を制圧に決まってんだろ!」
すでに着剣した銃を構え、トーマスが叫ぶ。
物思いにふけって行動が遅れた俺も慌てて銃剣を小銃に装着する。
何度もつけた事があるのに、ひどく手間取る。
ピ〜!
少し離れた小隊本部からホイッスルが響く。
ピー!!!
(くそ、誤射だけは勘弁してくれよイタリア海軍さん)
分隊長が思いっきり吹いたホイッスルに尻を押されて、俺たちは敵前線に突撃をかけるのだった。
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「おう、第1中隊の諸君じゃないか。待ちくたびれたぞ」
敵前線を突破し、その後間髪入れずに敵陣地を突破した俺たちはどうにかこうにか街道に出ることに成功した。
敵前線はそこそこ抵抗してきたが、敵後方陣地は無抵抗に近かった。
(ひどい有様だったな・・・)
時間がなく、塹壕や待避壕などの十分な野戦築城をできなかったのは敵も同じらしい。
陸軍の重砲部隊の全力射撃に等しい規模の砲撃を受け、敵陣地は完膚なきまでに破壊し尽くされていたのだ。
敵の反撃よりも、砲撃でほじくり返された地面を進むのに手間取るほどだった。
そして作戦通り敵陣地を突破後、俺たちは違う経路から進軍した第3中隊の奴らと落ち合ったわけなのだが・・・
「あ、ずりぃぞ!」
隣を歩いていたトーマスが声を上げる。
「いやぁ、助かるのなんのって。こいつを見たら共和政府軍の奴らビビって逃げて行きやがった」
そう語る第3中隊の奴らのそばに鎮座していたのは戦車だ。
民間車両ではあり得ない重低音でエンジンをアイドリングさせている。
(第3中隊の奴ら戦車の影を進軍しやがったのかよ!)
これには思わず俺も半眼になる。
必死になって丘を下って敵前線を突破し、丘を登って敵陣地を制圧した俺たちがとんだ貧乏くじを引かされたように感じてしまう。
(し・か・も・だ!)
橋頭堡への爆撃でトラックが何台が損傷したらしく、トラックで一気に橋頭堡まで戻る予定が徒歩になったのだ。
それは敵の攻撃なので仕方ないが、腹が立つのは少ないトラックは第3中隊が優先的に使用することだ。
「まぁまぁ、そんな顔で睨むなよ。おまえらはこのまま橋頭堡まで帰れるだろうが、俺たちはしんがりなんだぜ?」
そう言って、第3中隊の他の兵士が肩をすくめる。
(しんがりって言っても、追いかけてくる部隊は俺たちが撃破しただろうが!)
「けぇっ!そりゃありがてぇこった!どうせ戦車の影に隠れてのお散歩だろうが!」
トーマスが重ねて悪態をつく。
(まったくだ!)
俺もトーマスに加勢して口を開きかける。
「お前たちやめんか!しんがりほど危険な任務はないんだぞ!」
地獄耳の分隊長が飛んできて俺とトーマスのけつを蹴っ飛ばす。
(俺はなんにも言ってない!)
またしてもトーマスと一括りにされ『ご指導』を受けた俺は、トーマスを睨む。
「いやぁ、いつも悪いね」
そう言ってトーマスは分隊の他の奴らと一緒に橋頭堡に向かって歩き始めた。
(第3中隊の奴らよりお前の方がよっぽどたち悪いわ!)
口の減らないトーマスに殺意を覚えつつ、俺も橋頭堡まで歩き始めるのだった。
皆様、多くの感想ありがとうございます。
ネタバレに繋がりかねない事も多いのと、日々の更新に必死でお返事が最近できておりませんが、全て読ませて頂いております。
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終戦までなんとか書き切ろうと思いますので、今後もお付き合いよろしくお願いしますm- -m