11 カルタヘナ奇襲-4
「なんか意外と大丈夫だな」
トーマスが隣のたこつぼから呑気な声をあげた。
「あぁ、そうだな・・・。協和政府のやつら案外ぬるいなぁ」
俺も自分のたこつぼから返事をする。
俺たちSS海兵部隊が上陸してから2日経った。
そしてそろそろ2日目も日が落ちようとしている。
ルフトバッフェが空爆をする音が聞こえるより他は至って平穏だ。
ルフトバッフェはかなり本腰を入れているようで、カルタヘナの町周辺の様々な方角から爆発音がする。
事前の話では港湾や街道、鉄道など様々な箇所を空爆して敵軍の移動を妨害するとのことだったが、あまりにも敵の動きが鈍い。
(もしかしたら軍本部に連絡がいってないのか?)
スパルタンの大男が電話線なども切断したとも言っていた。
完全包囲して基地を攻撃したわけではないから、伝令兵くらいは敵も出しているはずだが、今のところ共和政府側からの攻撃はない。
(というか、俺たちの展開が早すぎるんだがな)
信じられないことに上陸日当日中に俺たち第1中隊の母体である増強第1海兵大隊の全員がスペインの地に乗り込んだ。
増強大隊だけでも1000名もの人数となるが、それ以外にも輸送要員と彼らが使う機材も上陸している。
これだけの人数が一気に上陸するとなると、本来数隻では済まない数の輸送船団が必要だ。
だが、実際はほんの数隻の輸送船で実施している。
共和政府側は大規模な上陸作戦を受けるとは思ってすらいなかったのだろう。
そして上陸作戦自体もだが、上陸後の橋頭保造成速度も有り得ない速度だ。
大量の重機が海岸から最寄りの道路まで、瞬く間に仮設の道を作り上げた。
(あんなに沢山の重機初めて見たな)
トーマスが言うには、ブルドーザーやショベルカーといった建築機械だそうだ。
重機と呼ぶらしい。
トーマスは実家が建設業しているそうで、嬉々として説明してくれた。
(めっちゃ高いらしいな・・・)
軍で使う機材が高価なのは今に始まったことではないが、ブルドーザーなどは民生品なのにべらぼうに高いらしい。
トーマスの親父さんも常々『ショベルカーが欲しい』とカタログを見ながらぼやいていたそうだ。
(まぁ、金塊をあれだけ運ぶんだ、万が一乗り捨ててもおつりがくるか・・・)
俺は洞窟の中にズラッと並んであった金塊が入った木箱を思い出す。
(どうやってあんな量運び出すんだと思ったんだけどな)
そこそこ大きい洞窟だから途中まではトラックが入るだろうが、最後は人力でやるしかない。
人力で木箱を部屋から出し、トラックに積み込み、橋頭堡で上陸艇に積み込み、さらに母船でおろす。
絶対3日で終わるはずがない。
って、思っていたのだがその予想は外れそうだ。
今朝、小隊付き補給班が橋頭保から飯を持って来てくれたのだが、その時点での情報は悪い意味で驚きはなかった。
金塊積み込み作業班から補給班は『もう1割ほど完了した』と聞いとのこと。
『1日で1割なら全部で10日かかるじゃねぇか!』と心の中で俺は悪態をついた。
ちなみに口に出したトーマスは小隊長から睨まれ、分隊長にしばかれていた。
(トーマスの口の軽さは病気だな)
思わず俺は隣で機嫌よく鼻歌を歌っている奴を横目で見る。
ホントにいい根性した野郎だ。
それは兎も角として、昼めしを持ってきた補給班の情報は俺たちの度肝を抜くものだった。
なぜかどや顔をした補給班の面々曰く、『もう3割ほど完了した』とのこと。
「「「半日で2割?!」」」思わず俺たちは声をあげてしまう。
分隊長も思わず声をあげている。
なぜか小隊長もドヤ顔をしている。
「いったいどうやって・・・?」
俺は思わず尋ねてしまう。
「それはですね」
「それは軍機だ」
話しかけた補給班の声を遮り、小隊長がぴしゃりと言い放つ。
「承知いたしました。申し訳ございません」
そう言われたら引き下がるしかない俺はすごすごと引き下がった。
だが、あとでトーマスがちゃっかり補給班からそのからくりを聞き出して教えてくれた。
なんと、ほとんどの作業を人力ではなく機械でおこなったそうだ。
段取りはこうだ。
まず金塊の小箱を小型ショベルカーでパレットという鉄の板に載せて固定する。
そしてそのパレットをフォークリフトという機械でトラックの荷台に積み込む。
そしてそのトラックが橋頭保まで金塊を運ぶのだが、なんとトラックの荷台が分離するのだという。
分離させた荷台を橋頭保の大型フォークリフトが揚陸艇に積み込む。
そして揚陸艇は母船のガントリークレーンで荷台をピックアップしてもらうのだ。
「ライヒってすげえな!」
俺は思わず声をあげる。
「クラウスもそう思うよな?!俺も聞いたとき耳を疑ったぜ」
そう言うとトーマスはニヤッと笑うと、橋頭保の方を指さす。
「お、晩飯を補給班がもってきたぜ。作業どれくらい進捗したか賭けるかクラウス?」
「いいぜ、トーマス。その代わり外れた方はデザートのキャンデー抜きだぞ」
「おうよ!」
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この時の俺たちは忘れていたのだ。
これが戦争だということを。
共和政府側は醜態をさらしてはいたが、誰よりもこの金の重要性を重く見ていることを。