4 閣議-2
「昨日は遅くまで楽しんでいたらしいな。」
「いやぁ、総統、流石に耳が早い!」
独裁者の常として、ちょび髭の情報網はすごい。
ゲーリングが酒のうんちくをたれながら、いかに祝賀会を楽しんでいたのか既に耳に入ってきている。
というより、ヒムラーとゲッベルスが告げ口してきた。
ざっくりとした分類で諸説はあると思うが、基本的にヒムラー・ゲッベルスは陰キャ。ゲーリングは陽キャである。
第一次大戦の空の英雄とだけあって、さすがの陽キャっぷりのようだ。
よくこんな真逆で癖つよの面々を、ちょび髭はまがりなりともまとめていたものである。
「祝賀を楽しむのは結構なことだが、袖の下はいい加減にするように」
「いやぁ、、総統も手厳しい。ほんの心付けを貰っているだけで、、そんな、、いえ、、はい、、、」
冷や汗をかきながらゲーリングがこたえてくる。
段々尻すぼみになるあたり、またそこそこの額をせしめたのだろう。
この男、忖度を期待しての賄賂も多いが、元空の英雄とだけあって、ユンカーや資本家からの受けもよく、普通に出資をせしめてくることも多い。
実際、ちょび髭党が政権をとるまでは資金面でバカにならない貢献をこの男はしてきたのだ。
「ふん、まぁいい。明後日だが航空省の会合があるだろう」
「え、えぇ。確かに明後日に航空省技術局長のウーデット等と、次期採用予定の戦闘機などについて打ち合わせをいたします。総統!いよいよBF109が本格量産となりますぞ!重戦闘機BF110や各種爆撃機もそろい踏みです!いやぁ、今年は豊作ですな!」
しゃべってる途中でテンションがあがってきたのか、ゲーリングは途端に饒舌になる。
(すまんな、ゲーリング。そのほとんどは大ナタをふるうことになる)
心の中で合掌する。
「それは何よりだ。ルフトバッフェは生まれかわることになるな。そんな会合、私が参加しないわけにはいかんな。是非参加させてもらおうか。」
「え、あ、はい。勿論総統に参加頂けることはわれらが誉れです。是非ご参加ください。ですが、総統閣下もしよろしければ急な参加の理由など教えて頂けましたら、、、」
「ゲーリング、君は理由がないと私の要望は聞けないというのかね」
「い、いえ!そういう訳では決してございません。直ちに段取りさせて頂きます!」
そう言って慌てて出ていこうとするゲーリング。
「あぁ、そうだ。シュミット博士は来るのかね?」
「もちろん、博士はきます。自分の設計した戦闘機の話ですから。」
当たり前ですとでも言いたげな顔でゲーリングは答えた。
「それは結構。ほかにも何名か呼んでおきたまえ。フォッケウルフ・ハインケル・ユンカース・ドルニエの各社の担当者を呼びたまえ。あぁ、そうだフォッケウルフのタンク博士は必ず連れてくるように。あとは、ダイムラー、BMWの担当者も呼ぶように」
「そ、総統?!それはほぼライヒの航空産業のほぼ全てです!い、いえ、勿論総統のご指示ですので直ちに手配致しますが、明後日となると流石にその・・・」
「ではいつなら実施できる!直ちに日取りを決めたまえ!」
「承知いたしました!ハイルちょび髭!」
そう言ってゲーリングは今度こそ部屋を出ていった。
(少し訝しげな顔をしていたな)
去り際にゲーリングはやや不思議そうな顔をしていた。
普通なら、いきなり無茶なことを言われたことに対しての顔が思うところだが、ちょび髭の記憶をもつ俺には分かる。
案外、すんなり日程変更が受け入れられた事に驚いているのだ。
どんだけわがままな独裁者だと思われているんだよ!って感じではあるが、実際かなりわがままな独裁者なのだから世話はない。
ある意味、ワンマン社長の究極系がちょび髭なのだ。
ともあれ
(いよいよこれからだな)
この時の俺は勿論知る由もないが、こうして後の歴史学者が「90日改革」と呼ぶことになる、怒涛の3か月が幕をあけることになる。