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6 カルタヘナ奇襲-1


「俺はここで一体何をしているんだ?」


隣のトーマス伍長がぼやくのが聞こえた。


「さぁな、だがボリシェヴィキどもの兵器を奪ってくるってのが事前の話じゃなかったか?」


先ほど母船で小隊長が言っていたことをそのまま返してやる。


「そういうことじゃねぇよ、俺らは陸軍にいたんだぜ?陸軍ってのは陸にいるもんだ。なんで海の上から陸を目指すハメになったのかってことだよ」


(そんなもん俺も知りたいわ)


俺、クラウス・ボルツマン伍長は海上にいた。


先ほど母船から小型艇(揚陸艇という名前らしい、乗り心地は最悪だ)に半小隊ごとに押しこめられ、俺たちはスペインの海岸を目指している。


ライヒと比べたら暖かいのは噂通りだが、流石に3月の海は寒い。

先ほどから波しぶきが時折船に飛んできて、俺たちの体温を奪っていく。

おかげで、俺もトーマスも皆寒さで手が震えている。


(いや、寒さのせいだけではないか)


訓練は何度かしていたが、実戦は初めてだ。

よく見るとちょっと前にいる分隊長ですら顔がこわばっているのが見える。


(トーマスの言う通りだ、なんで俺たちここにいるんだ)


俺は現実逃避がてら半年前からの出来事を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1936年9月某日


「クラウス、お前来月からSSに行ってこい」


俺は突然上官から呼び出しをくらい、2、3簡単な質問をされた後そう言われた。


(え、SS?ってことは親衛隊?)


「ハルトマン少尉、お言葉ではございますが私はSSに入れないと思いますが」


俺は体はでかいが黒髪であり、どちらかというとスラブ系と言っていい顔立ちをしている自覚がある。

両親ともにハノーファー育ちの生粋のドイツ男子ではあるが、金髪碧眼などが入隊条件にしてるらしい親衛隊との相性がいいとは思えない。


「クラウス、それがだな、どうやら容姿の入隊基準が撤廃されている。良かったなお前でも問題はなさそうだぞ」


(いやそもそも行きたくねぇよ)


「いえ、私は今この部隊で頑張らせて頂きたく存じます!ハルトマン少尉のご指導のもと・・・」


「ダメだクラウス1等兵。これは上からの命令だ。陸軍からSSに精鋭を送り込めとのことなのだ。その点貴様は射撃成績優秀かつ体格もいい。アスファルト兵士どもに真の兵士を見せてきてやれ」


「は、はぁ」


珍しくハルトマン少尉に褒められ悪い気はしなかったが、どうにも嫌な予感がする。

親衛隊と陸軍が同じ部隊で仲良くできるとはとても思えん。


(『不意の褒め言葉は不幸の前触れ』とお袋も言っていたな)


だが軍で飯を食っている以上、上官の命令は絶対だ。

俺は嫌な予感に苛まれながらも、承諾の返事をハルトマン少尉に返したのだ。


(とんでもない失敗だった。これだといっそ除隊した方がマシだったわ!)


新天地で俺を待っていたのはとんでもなくキツイ環境だった。


SSには親衛隊・陸軍のみならず空軍とあろうことか海軍まで来ていた。


(なんで海軍なんかがいるんだ?って思ったもんだなぁ)


異動直後の俺は『陸軍を代表してきたんだ!』というイキリがあった。


(俺だけではなかったがな)


同じく陸軍から来た仲間達も『陸軍の力を見せてやる』と意気込んでいたし、親衛隊の連中も『選ばれしアーリア人の底力を思い知らせてやる』的なノリだったと思う。


そんな考え方のいろんな奴らが集まっていて何も起こらないわけがない。


当初は派閥、喧嘩。嫌がらせが絶えないとんでもない状況だった。

ある意味配属前に俺が想定していたSSの姿そのままって感じだった。


(だがすぐに喧嘩・嫌がらせは吹っ飛んだがな)


別に仲良くなってからとか、そんな理由ではない。


(シンプルに訓練がきつすぎた・・・)


親衛隊の教官も元を正せば陸軍出身だそうだ。

それを聞いて俺を始め陸軍からきた仲間は『あぁ、これまでの歩兵訓練と似たもんだろう』って初めは思っていたのだ。


だが、全然違った。


体力錬成からしてキツイを通りこしたキツさ。

そして訓練内容も通常の歩兵訓練とは全く違うのだ。


(確かに泳げるとは言ったが、泳ぐとかそんなレベルじゃないだろ)


俺はハノーファー育ちだ。

家の近くに湖があったこともあり、どちらかというと泳げる方だと自負してがそんな自信はふっとんだ。


そもそも着衣で泳げと言われるのだ。

しかもくそ寒い冬のプールの中を。


ときには武器をもったまま突き落とされ、なんとかプールに浮かべられた筏の上にあがってくるよう強要された。


(死ぬかとおもったわ・・・)


実際、うまく装備を外せず殉職しかけた連中が陸軍、親衛隊問わず続出した。

だがそれで訓練が変更になるかと思いきやそうではなかった。

しばらくの間だけ突き落としはなくなったが、すぐに俺たちは多少仕様が変わった装備を渡された。


(教官連中、あいつらマジで許さん)


そして俺たちは多少改良された背嚢や軍服で再びのドボンだ。


殉職しかける連中は次第に減ったが、教官への恨みは日に日に増していく。


そうなると不思議なことに、陸軍と親衛隊の諍いは減っていった。

喧嘩する体力など訓練後に残らなかったこともあるし、お互い以上に教官への恨みが勝ったのだ。


そんなキツイ訓練だったので一定数の離脱者は出た。

だが、大多数は残った。


陸軍・親衛隊の互いへのライバル意識がそうさせたのか、あるいはそこそこ色を付けられた給料というニンジンにおどらされたのか、8割方は半年の訓練をくぐり抜けた。


(こんな風になるくらいだったら辞めた方がよかったかもしれんけどな)


つい2週間前これまた急に教官どもが俺たちを集めてこういったのだ。


「喜べおまえら、キツイ訓練は一旦卒業だ」


勿論だれも「やったー」など言わないし思ってもない。

これまでの訓練で教官どもの根っこが曲がっていると俺たちは確信していたからだ。


--------------------------------------------------------------------------------------------------


「上陸1分間前!」


揚陸艇の後ろの操縦席から声があがる。


その声に俺はここ半年の回想から現実に引き戻される。


「くそ、やるしかねぇか」


となりのトーマスがつぶやく。


「だな」


俺も覚悟を決め手元のMP28 を握りしめる。

拳銃弾を使うから威力は高くないが、閉所での取り回しは最高だ。


俺は個人的にはフルサイズ小銃のKar38kよりMP28のほうを気に入っている。

陸軍でも採用すればいいのにと思う。


揚陸艇に乗り込んだときはほぼ真っ暗だった空が、東から次第に明るくなってきた。

夜の海独特の恐怖は薄らいできたが、いつ敵に発見されるか不安だ。


(こんなペラペラの船体で本当に小銃弾防げるのか?)


事前の説明では小銃弾程度なら船体が弾くと言われているが、はなはだ疑問だ。


幸いなことに、敵からの銃火はまだない。


そして、ドン!という衝撃と共に、揚陸艇の先端がスペイン本土にキスをした。


揚陸艇の前部ハッチが前に倒れるのが見える。

緊張と寒さをアドレナリンが上回り手の震えがとまる。


「よし、お前ら降りろ、降りろ!いけ!いけ!いくんだ!」


前から分隊長の怒鳴り声が聞こえる。

その声に尻を引っぱたかれながら、俺たちSS第1海兵団第1中隊第2小隊所属の第3、第4分隊はスペイン本土に足を踏み入れたのだった。











初の戦闘回となりそうです。(奇襲なので激しさはしれてますが)

動きがある回は執筆に苦労しますと、昨日投稿出来なかった言い訳をしてみます笑

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