5 SpezielleStaffel-2
「特殊作戦梯団・・・ですか」
そう言葉を返してくるゲーリング。
俺は二人に俗にいう特殊部隊の概要を説明していた。
この時代にはまだ特殊部隊という概念は存在していない。
正確に言うと個々には特殊部隊に近い存在の部隊・組織はあるが体系的にはなっていないと言うべきだろう。
降下猟兵もある意味では特殊部隊といえる。
武装親衛隊も通常部隊より厳しい選考、厳しい訓練を(両方ヒムラーの趣味である)課しているという点では特殊部隊に近いものがある。
だが、それでも双方通常部隊の延長線上の枠内でしかない。
俺が求めているのは数年後に英国で設立されるSASのような組織。
少人数での堅固目標に対する侵入・破壊工作。
果ては要人暗殺や捕虜救出など諜報活動を武力で補完する。
ある程度の数での運用を目指す通常部隊とは異なり、少人数での隠密下での活動を志向する特殊部隊。
そんな特殊部隊の創設と、その特殊部隊の基盤となる特殊技能をもつ通常部隊の設立を俺は目指すことにしたのだ。
「そうだ、この前提であるならば国防軍も協力できると言ってきた。むしろ国防軍からも人員の派遣をしたいと申し出てきた。殊勝なことではないか。」
「は、はぁ。しかしながら閣下」
「分かっている。これは国防軍が特殊作戦梯団を影響下に置くための差し金だ。」
そういうと俺はまだ不満げなゲーリングをみる。
なぜかヒムラーは俺の話をきいてから態度が一転した。
『さすがは総統閣下』とでも言いたげに目をキラキラさせている。
(ヒムラーのこういうところマジで不気味)
俺がいうのもなんだが、お前が必死に作り上げようとしていた部隊取り壊されるんだぞ?そんな簡単に納得してええんか?!と思う。
「だがなゲーリング、特殊作戦梯団は通常部隊とは全く異なる訓練をすることになる。親衛隊、空軍は勿論だが海軍からも出向者が来ることになるだろう。特殊作戦梯団は従来の3軍とは全く異なる組織になる」
「・・・海軍からもですか?」
海軍の名前がここで出てきたことは流石に予想外だったらしくヒムラーが口を挟んできた。
「そうだ、特殊作戦梯団の行動範囲はあらゆる場所に及ぶ。当然海軍の協力が必須となる局面が出てくるだろう。ライヒが大陸国家なのは間違いないが、ライヒの利益のためには海外での特殊作戦を行うこともあるだろう」
「なるほど!流石です閣下!確かにライヒには海への目線が欠けております!ライヒがそのような部隊を持つ事は海洋国家への決戦兵力ともなり得ますな!」
(言ってることは間違い無いのだが・・・本当にわかっているのか・・・?)
ヒムラーは史実でも『忠臣ヒムラー』と呼ばれるほどのちょび髭狂信者だった。
ちょび髭の言うことにはなんでも追従してくるので、俺からすると分かったのか分かって無いのかが分からん。
だが、ヒムラーの言う通りなのは間違いない。
俺が目指す特殊作戦梯団とは、海兵隊部門・空挺部門・山岳部門・冬季戦部門の4部門を基幹部門とする。
そして各部門の内のいくつかを一般隊員にもローテーションさせ部門の冗長性を向上させておく。
なんらかの作戦で部隊が損耗した際の再戦力化を素早くするためだ。
そして複数部門での錬成を成績優秀で修了した者に、より少人数での潜入・工作・偵察などの特殊技能を教育し、最精鋭の特殊部隊を育成する。
部隊の派遣は3軍いずれかの要請もしくは、特殊作戦梯団自身の提案をもとに国防省により決定される。
その際、特殊作戦梯団の性質上、国家元首の認可が別途必要と規定する。
なぜなら部隊の補充が困難であり、また投入される作戦は外交上・政治上多大な影響が出るものが多いことが想定されるためだ。
その辺りの構想を改めて二人に説明する。
「なるほど、3軍すべての要素を含みつつも本質が全く異なる部隊というわけですか」
突き出た腹の上で腕を組み、うなり声を上げるゲーリング。
先ほどまでと違い、納得と感心の声色が含まれている。
「そうだ。ブロンベルク大臣との話はついている。正式な部隊発足は事務方の手続きや法整備などで来年となるが、部隊の錬成は来月から開始してもらう。」
(いつも通り、国防軍。というかOKHの説得には骨が折れたがな)
3軍の他に軍隊組織を新たに立ち上げるのだ。
当然、間接的に既得権益を犯されることになる国防軍(特に陸軍)は難色を示したが、「だったら親衛隊がそのまま軍隊化するぜ?」と渋々承諾をした。
なにせ親衛隊は20万人もいる。
ちなみになんと国防軍は3軍合わせても100万人以下だ。
親衛隊の危険性は国防軍側もよく分かっている。
国防軍の統制を受け付けない親衛隊がそのまま下手に軍隊化するよりかは、国防軍の統制を間接的に受けることになる特殊作戦梯団の創設の方がまだマシと考えたようだ。
「・・・それはまた急な話ですね」
これには流石のヒムラーも難しい表情をする。
一口に部隊を統合すると言っても、誰を司令官にするのか、駐屯地はどこにするのか、訓練の内容はどうするのかなどと、調整が必要な事項は山ほどある。
それを1ヶ月以内でやれというのは、無茶を通り越して無理の領域となってしまう。
「安心したまえ、何も全部隊をいきなり統合しろとは言わん。成績優秀なものを中隊規模で集めろ。まずはその規模で始める。」
「それでしたらなんとか・・・」
『それならなんとかなるか?』といった感じで顔を見合わせる二人。
「では諸君、各々の部隊にそう伝えたまえ。時は金なりだ。すぐにやりたまえ」
「「ハイルちょび髭!」」
そう言うと二人は執務室を急いで後にしたのだった。
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「特殊部隊」とは今日では聞き慣れた言葉である。
対テロ活動では必須の存在であり、世界のほぼすべての国家がその規模は様々ながらも所持している。
軍事に詳しくない一般市民にとっても、各種アクション映画などを通じてある意味おなじみの存在であり、その部隊の任務の性格とは相反して知名度は高い。
特殊部隊の原点がどこにあるかは議論が分かれるところではあるが、近代的な特殊部隊の源流は『SS』にあるとされる。
(紅茶紳士などは、部隊の構想自体はSASの方が早かったと主張しているが、部隊設立自体は明らかにSSより後である)
『SS』はちょび髭ドイツの進撃を各所で支えており、連合軍からは呪詛を込めて、ちょび髭ドイツ軍は畏敬の念を込めて「化け物」と呼ばれた。
その最初の戦果はスペイン内戦でのイタリア海軍部隊との共同作戦とされる。
もっともその戦果は当初隠蔽はされており、詳細が判明したのは戦後になってからである。
それもあり特殊部隊の源流は大英帝国のSASにあると主張する紅茶紳士が今でも一定数存在するのである。
なお、よく混同されるが特殊作戦梯団『SS』とちょび髭党親衛隊『SS』は双方同じ略称であるが、別組織である。
当初は親衛隊が特殊作戦梯団『SS』のうち最大派閥であり、親衛隊の影響も大きかったのだが、陸軍・空軍・海軍からの人員の派遣もあり次第に影響力は薄れていった。
親衛隊も影響力の低下は把握しており、低下を阻止すべく様々な取り組みを行った。
より多くの人数を送り込んだり政治的圧力をかけるなどがその代表的なものであった。
だが、SSにおいての訓練は非常に過酷であった。
生半可な人間では送り込んでも送り返されることになり、訓練を乗り越えた人間は、古巣の親衛隊よりも共に過酷な訓練(時には文字通り命がけとなる)を乗り越えたSSの戦友や先輩に対して帰属意識を持つようになる始末であった。
そして政治的圧力をかけようとするがそれも上手くいかなかった。
国防省があの手この手で抵抗していたこともあるが、部隊設立そのものがちょび髭総統肝いりであり、親衛隊トップの『忠臣ヒムラー』自身圧力をかけることに消極的だったせいだと言われている。
組織同士の綱引きの絶妙な加減もあり、創設当初から一定の独自性を確保できた特殊作戦梯団『SS』は第二次世界大戦の戦果をもって、正式に今の3軍と肩を並べる立場を得るに至った。
『SS』は当初の海兵部隊・空挺部隊・冬季戦部隊・山岳戦部隊に加え、砂漠戦部隊・熱帯戦部隊を加えた部隊編成となりその規模を拡大させている。
創設から半世紀以上がたつ『SS』であるが、SASやSEALs・特殊作戦群といった世界中の特殊部隊と共に世界中から畏怖の目を向けられており、武装組織の頂点的存在として今でもその名をとどろかせいる。
めっちゃ冒頭重複しておりました。
ご指摘頂いた皆様ありがとうございます。