3 ドゥーチェとちょび髭 2巨頭会談-2
「・・・そんな大油田であれば我が国も100年安泰であるな。だが、友よ。我々は未来の油田の話よりも喫緊の問題があると思うのだがいかがかね?」
ドゥーチェはおもむろにそう切り出してきた。
手元を見ると、いつの間にかワインが水に替わっている。
「それはもしかしなくともスペイン内戦のことですな?」
「その通りだ。かの国を赤く染めさせる訳にはいかん。フランコを支援せねばならん」
そう言うとドゥーチェは水を一口のみ、言葉を続けた。
「我が国はそれなりの規模の陸上部隊を送っている。友よ。そちらは相変わらず空軍だけかね?」
ドゥーチェの発言に緊張がはしる。
空軍が主体とはいえライヒは数千名単位の人員をすでに投入している。
(焦るのは分かるがゲーリングの前でその発言はどうなのだ)
間接的に『君の率いる空軍のみでは力不足』と言われた形になったゲーリングは、かなり気分を害したようで、表情も強張っている。
同席していた元イタリア空軍大臣のイタロ=バルボも眉をひそめている。
スペイン内戦は当初の想定よりも長期化しており、戦費もかさんでいる。
それのみか直近ではマドリード近郊の戦いにおいてイタリア陸軍(一応義勇軍の体裁はとっている)が人民政府軍に敗北し、多数の捕虜を出すといった醜態を演じてしまっているのだ。
(ドゥーチェが焦るもの無理はないか・・・)
独裁者というのは権威が全てである。
これはライヒ、イタリアと国は違えど本質は同じだ。
このままスペイン内戦での苦戦が続けば、エチオピア併合で増したドゥーチェの権威に傷がつくことになりかねない。
(とは言え我に秘策ありだ)
「ドゥーチェ、我々も協力したいのはやまやまなのだがライヒが派手に動くと英仏も動きかねない。勿論さらに空軍は増強するし、限定的ではあるが戦車部隊も送り込もう。」
そこまで言うと、今度は俺が手元の水を飲む。
「だがドゥーチェ、人民政府軍が息を吹き返しつつあるのはソビエトのせいだ。ソビエトの支援を断てば人民政府軍など所詮は烏合の衆。たちどころに瓦解するだろう」
「友よ、いうは易しであるがそんなこと本当に出来るのかね?確かに君のところの軍部から提案があった作戦は一定の効果があるかもしれない。だが成功したとしても一時的な戦術上の勝利にとどまるのでないかね?。スターリンもいまさら国際非難など気にもせんだろう」
ドゥーチェは不満げに言葉を被せてくる。
よほど直近のマドリード近郊での敗戦がこたえているようだ。
(まぁ、ドゥーチェには悪いが全て予想の範疇だがな)
ヘタリア軍がヘタリアなのは今更のことだし(俺にとっては!)、スペイン内戦がそんな数ヶ月で終わるものでないのも今更のことだ。(これも俺にとっては!)
そしてこうなる事が分かっている以上、俺もちゃんと布石は打っている。
そもそもスペイン内戦が長引いたのはいくつかの要因があるが、大きなものとしては3つあったとされる。
1つ目は、ソビエトの人民政府軍への支援だ。航空機や戦車を含む有力な兵器・部隊を送っており、これが人民政府軍の延命に一役買っていた。
2つ目は、フランコ将軍が早期終結を目指さなかったせいと言われている。ライヒやイタリアの力に頼り切りになり内戦に勝利したのでは、自らの政権が傀儡政権に近いものになってしまうことを危惧していたという。
なのでライヒやイタリアの戦力と呼応して一気に内戦を終えるのではなく、支援を引き出せるだけ引き出した上で、出来るだけ自らが主となった状態での内戦終結を目指していたらしい。
3つ目は、なんと俺ちょび髭のせいである。スペイン内戦がライヒの対外拡張主義の目くらましになると考えていたちょび髭はあえて大規模な地上軍の派遣などはせず、内戦が長引くよう仕向けていたという。
1つ目はある意味仕方ないとしても、2つ目、3つ目はスペイン国民にとってはとんでもないことだ。
内戦が起きること自体は仕方ないが、無駄に長期化するよう仕向けられ、その期間に亡くなってしまった人は本当に浮かばれない・・・
(まぁ、こんな感傷をちょび髭である俺がもつのは偽善だろうがな)
このままいくとスペイン内戦とは比にならない人間を俺は間接的に死なせてしまうことになるだろう。
(死なせるではないか・・・殺すってことだよな)
ともすれば暗い事実から目を背けようとする自らに思わずうんざりする。
やや自己嫌悪に襲われ黙り込んでしまった俺と、俺の急な沈黙に『ちょっと言い過ぎか?』と少し困った顔になったドゥーチェ。
「え~、ドゥーチェ!このワインは非常においし」
コンコン
『ここは仕方ない、一肌脱ぐか』と口を開いたゲーリングだったが、不意に響いたノックに言葉を遮られた。
「どうした、入れ」
『すまない、ゲーリング閣下』と目で視線をやりながらバルボがノックの主に返事をした。
するとライヒとイタリアの通信兵が一人づつ入室してきた。
まずイタリアの通信兵が口を開く。
「報告します!先ほど特殊作戦についておりました海軍部隊から連絡がありました。想定外の苦戦があった模様で、ソビエト支援物資の奪取はごく一部となったとのことです!」
勤めて表情を無にした様子で通信兵が淡々と報告する。
それを聞いてドゥーチェが天を仰ぐ。
「我が国の軍はどうなっているのだ!陸軍に加えて海軍も作戦失敗か!」
(流石に難しいか・・・)
ソビエトから軍事物資の支援があることが分かっていた俺は、諜報部にその行方を追わせていたのだ。
小銃ならまだしも、航空機や戦車はこそっと送るなど不可能だ。
送るなら船便のはずで、陸揚げしたところを一網打尽にしてやろうと思ったのだ。
(戦車などの最新兵器を送っているのが露見したら国際世論も反共に傾くと思ったのだがな)
ただ、流石にこの作戦には無理があったようだ。
そんな重要物資の輸送には細心の注意を払い、護衛もきちんと用意する。
ある程度の護衛戦力は食い破れるよう、イタリア軍もそれなりの兵力を用意していたはずなのだが・・・
(やはり情報が漏れていたようだな)
想定以上の護衛戦力がついていたらしく、小銃などの小火器をいくらか破壊・奪取するのが精一杯だったようだ。
その気まずい沈黙のなか、ライヒの伝令が口を開いた。
「報告します!ライヒSS部隊とイタリア海軍特殊部隊は敵軍港への侵入および目的物の確保に成功しました!」
(どうやら本命はSS部隊が見事やり遂げたようだな)
俺はほっとを胸をなでおろした。
チラッとドゥーチェの方をみると、ドゥーチェもひとまずその大きな胸をなでおろすのが見えた。
ゲーリングが3枚目キャラになりつつあります。