39 ちょび髭総統と転生チート-3
「・・・その話は本当なのですか?」
訝しげというより胡散臭そうな顔でこちらを見てくるのは経産省大臣シャハトだ。
同席しているノイラート外務大臣にも『ほんまかいな』と明らかに書いてある。
「もちろんだ!なんだお前達、私を疑うのか?!西安事件も私が言った通りだっただろう!」
「・・・それはそうですが、こんな情報どこで手に入れたのです?イタリアに油田があるなんて聞いた事ないですぞ・・・」
西安事件を持ち出されると居心地悪そうな様子だが、ノイラート大臣の声色も全く乗り気ではなさそうな様子だ。
(せっかく転生チートを披露してやっているのに頑固だなぁ)
俺はほとんど転生チートを持っていないが、未来人だからこそ知っているとっておきの転生チートがある。
それは油田だ。
転生ものでは使い古された手法だが、こちらも命がかかっているのだ。
もう遠慮なく使わせていただくことにする。
日本サイドの転生では大慶油田がお約束だが、実はヨーロッパサイドでも油田チートは存在する。
それはテンパロッサ油田だ。
2020年代半ばから産油が開始された比較的新しい油田である。
この油田のニュースを前世で見た時は何故か裏切られた気持ちになったものだ。
(資源に恵まれない仲間だと思っていたのにな・・・まさか油田があるとはな)
前世では最大産油量は年間400万トンほどだったと記憶しているが、戦時ともなればもう少し伸び代はあるだろう。
なにせ未来と違って環境アセスメントとか何やらがうるさくない。
言い方が悪いがやりたい放題ができる。
ちなみにこの量はルーマニアのプロイェシュティ油田の3分の2に相当する。
実用化できれば枢軸国ヨーロッパサイドの石油事情を大きく改善することができることが期待できる。
さらにはもう一つ大規模な油田がある。
それはイタリアの植民地リビアにある油田だ。
年間1000万トン以上の産油量が将来的に見込まれ、ソビエトのバクー油田と同等以上のポテンシャルを秘めている。
ただしこちらは史実においても戦前から知られていたはずだが産油に成功していない。
なぜ産油出来なかったかは流石に覚えていないが、解決出来るようであれば解決したいと考えている。
(とはいえ地中海を横断して石油を運べるか非常に疑問だけどな)
なにせヘタリア海軍だ。
ロイヤルネイビーの通商破壊に打ち勝つ未来が見えない・・・
「ふん、だが諸君もそこに石油がないとは言い切れまい。どちらにせよローマは寄る予定だったのだ。ついでにドゥーチェに伝えてくる。万が一出なくともドゥーチェは何もいうまい。どのみち試掘費用はライヒが負担する」
「閣下。本当に外遊されるおつもりですか?外交的に微妙な時期です。お控えになられた方が・・・」
ノイラート大臣は暗にスペイン内戦のことを仄めかし、俺の外遊を止めてくる。
確かにライヒとイタリアの本格介入により国際関係は緊張度合いを高めている。
「大臣。逆だよ大臣。今だからこそ外遊できるのだ。今を逃してはとてもじゃないがライヒを離れることは出来なくなる。今なのだよ大臣」
「・・・本当に戦争をされるのですか?外交の延長としての戦争を否定は致しませぬが、やはりまだ完全に同意は出来かねます」
「そうです総統閣下。閣下のお考えは良く分かっておりますし、理がある事は以前のご説明で理解いたしました。ですが、英仏は強大です。またユダヤ人迫害を大幅緩和したことで英米との関係悪化は歯止めがかかりつつありますが、共産主義者への取り締まりを強化したことでソビエトとの関係が悪化しております・・・。ライヒには仮想敵が多すぎでございます」
ノイラート大臣の言葉に乗っかりシャハトまでがのっかってくる。
(やれやれちょび髭が二人を遠ざけたはずだ。こんな時ゲーリングやヒムラー達なら二つ返事なんだけどな)
諫言耳に苦し。
それを地でいくような二人だ。
ライヒには欠かせない人材だが、独裁者としてはどうも扱いづらい。
「だからこそのイタリアとの連携であろう!彼の国が産油国になればライヒの海外政策に幅が広がるのだ!そのためのドゥーチェとの会合だ。ノイラート大臣手配をよろしく頼むぞ」
「・・・承知いたしました。しかしながら慎重な立ち回りをくれぐれもお願いします」
「分かっているノイラート。ライヒもまだ準備は出来ておらん。拙速な事はせん」
「・・・わかりました、早速担当部署に伝えて参ります」
『ほんまかいな?』と言いたげな顔をしてノイラート大臣は部屋を出て行った。
「それでだ、シャハト。君には産油装置の手配を頼みたい。特に掘削装置のノウハウはライヒに欠けている。重大任務だぞ!」
「総統閣下、高度な掘削技術をもつ国家、会社は限られております。試掘装置ならまだしも本格的な掘削装置となりますと・・・」
シャハトが難しい顔をして答える。
(そうなんだよなぁ、素直に掘削装置を売ってくれるとはとても思えないんだよなぁ)
未来と違い世界のグローバル化は進んでいない。
石油を採掘している会社も非常に限られており、何より会社同士で結託している。
いわゆるセブンシスターと呼ばれる英米系の石油会社だ。
自らライバルを増やすような動きを互いに許容するとは思えない。
(しかも非協力的の範疇で済むかすら疑問なんだよなぁ)
枢軸国側がその国内で原油を大量に産出するというのは、英米にとって許容出来ないのではないか?という疑惑だ。
仮にライヒとイタリアがリビア油田の開発に成功したら、なんらかの難癖をつけてきそうな気がする。
特にフランスなどは前大戦での賠償金の回収を諦めておらず、戦争を辞さない覚悟でライヒに向かってきそうな予感がする。
(結局のところどう転んでも戦争は避けられないだろうな)
20世紀中盤。
この時代自体が平和を拒んでいるようにすら思えてくる。
植民地時代からの脱却、通信技術・航空技術により狭くなる世界、前大戦の爪痕。
戦争の火種が満載である・・・。
(しかしそんな時代だからこそライヒには原油が必要だ)
「難しい事など分かっている。簡単な事であったらお前に頼まん。だがライヒには是非とも必要だ」
「・・・承知いたしました。伝手を当たってみますが過度なご期待はご容赦願います」
そういって逃げをうってから、シャハトも部屋を出て行った。
(さて、どう転ぶかなだな)
どちらかの油田だけでも産油に成功すればライヒが楽になることは勿論として、イタリアのヘタリア海軍もちょっとは動くようになるだろう。
だが、上手いこといくかは現時点では未知数といったところだ。
(シャハトのお手なみ拝見と行こうか)
こと油田に関して全くの門外漢である俺は、大体の位置を伝えることしかできない。
あとはシャハトやトートが手配する実務者集団に任せるしかないだろう。
良い結果が出ることを祈りつつ、俺は手元のイタリア地図に目を落とすのだった。
この転生チートをするべきかは悩みました。
悩みましたが、転生ものが好きな主人公が使わないのも不自然かと思い採用しました。