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3 閣議-1

「総統!それはどういう意味なのですか!」


閣議室にヒムラーの高い声が響き渡る。


「総統閣下、確かにオリンピックの為にお頼みしたのは私ですが、もとに戻さないとなるといささか問題が生じるのではないでしょうか?」


いささか困惑した声をあげる小柄な男は宣伝省のゲッベルスだ。


「君たちは私が変節したと言いたいのかね」


俺はわざとイラついた形の声をだす。

俺のなかのちょび髭の記憶がそうやって接するのが最善手と伝えてくる。


「いえ、めっそうも無いです。申し訳ございません」


慌ててヒムラーが言いつのってくる。


「勿論、総統のおっしゃることに疑問などございませんとも。」


小柄な体を一層縮めてゲッベルスがぼそぼそのたまう。


(まぁ、変節したんだけどね)


俺がなにをおいても真っ先にすべきこと。


それは何と言ってもダビデの星の人々、ユダヤ人への迫害の阻止だ。


これは今のタイミングだからこそ出来ると言っても過言ではない。


ちょび髭党と言うと、ユダヤ人迫害のイメージが大きいし、実際彼らは精力的にそれを行ってきた。


とは言え、ずっとフルスロットルでやっていたかと言うとそんな事はない。


迫害が緩和された時期もあったのだ。


それがちょうど今、ベルリンオリンピック開催の期間だったのだ。

史実においても、ベルリンオリンピックの間は世界中の国々から旅行客が来るということでユダヤ人への迫害を表面上はかなり抑えるようにしたのだ。


商店などからはユダヤ人排斥のポスターなどは消え、実際に旅行にきた外国人達も「意外とユダヤ人迫害っていっても大した事ないやん」などと、拍子抜けで本国に帰っていったりもしたそうだ。


俺はこの状況を利用する。


というか、ここで食い止めないとなし崩しになる。


このオリンピック閉会後、徐々にユダヤ人迫害はエスカレートしていき、2年後には「水晶の夜」事件が起き、引き返せないところまで突き進んでしまう。


ユダヤ人差別、というか人種差別は21世紀の感覚をもっている俺としては受け入れ難いことだ。


そしてそれを差っ引いても、ユダヤ人もドイツ国民なのだ。

国民が多い方が来たる戦いに有利なのに変わりはないはずだ。


「私は変節などしていない。ただ、諸君らも見たはずだ。ライヒの街中の様子をみて拍子抜けして帰っていく外国人たちを。我らがライヒはまだ対外戦争の準備は出来ていない。諸外国を安心させ、仮初の平和が長続きすると錯覚させなければならない!諸君らはそれを理解しなければならない!」


「し、しかし総統、我が党も国民もユダヤ人排除で染まっております。そんな方針転換が受け入れられるでしょうか。総統ご自身にお話しをお聞きした私自身ですら、にわかには承服しかねるところがあります!」


「ゲッベルス!それを党員と国民に納得させるのが宣伝省たる君の役目だろう!」


(言ってることが我ながらパワハラ上司なんだよなぁ)


自分でもかなり理不尽なことを言っているとは思う。


ついこの間まではユダヤ人憎しを前面に押し出していたのに急な方針転換なのだ。


「承知致しました総統。親衛隊はなんとか私がまとめましょう。」


叱責されるゲッベルスを横目にヒムラーがしゃしゃり出てくる。


「出来ないとは言っていない!ただ、急な方針転換なのでやりごたえがあるというだけだ!」



(ほんと権力闘争が激しいな)


3人寄れば派閥ができるとはよく言うが、ちょび髭党の中も派閥争いだらけだ。


ゲーリング・ゲッベルス・ヒムラー。


この3人はそれぞれ特徴があり、お互いが時には政敵、時には同盟者となる複雑な関係だ。

そして、3人ともちょび髭に心酔すると同時に畏怖している。


そして少しでも他の二人よりも優位に立とうとこうやってちょび髭にゴマを擦ってくるのだ。


「ふん、まぁいい。ヒムラー、ゲッベルス。諸君等の働きに期待している。」


「「ハイル、ちょび髭!」」


そう言って二人は退席して行った。


(ほんと最悪の上司だな)


二人が出て行った後、俺は思わず自嘲してしまう。


急な方針転換を、詳細の理由もまともに告げずに部下にぶん投げして、ついでにその責任もぶん投げる。


社会人としては最悪だろう。


(まぁ、だが独裁者としては正解なのだろうな)


独裁者とは間違いを犯せない存在なのだ。

だからこそ責任を負わないように立ち回る。


成功したら指示した自分の手柄。失敗すれば実行した者の不手際を責め立てる。


もちろん普通にやったらそんな手法は崩壊する。


その点、ちょび髭はゲーリング・ゲッベルス・ヒムラーの3人をうまくバランスをとって使い組織を成り立たせていた。

さらには国軍などのちょび髭党以外の勢力もうまくバランスをとりライヒ(ドイツ)を動かしていくのだ。


この場にゲーリングがいないのもあえてである。


分割して統治せよ。


ちょび髭が意識的に行っていたのか、それとも天性の感覚なのか分からないが、俺の中のちょび髭の感覚がこのやり方が独裁者としては正解なのだと教えてくる。


「総統!お呼びでしょうか!」


「うむ、よく来たゲーリング」


さて、あの二人の次はゲーリングだな。


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― 新着の感想 ―
「ハイル シュヌルバルト!」 ちょっとかっこいい
たしかにちょび髭やとなんかコメディチックで締まらないよね、少し残念な印象になってしまう
総統閣下万歳じゃあかんのか?
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