27 陸軍兵器改革-3 OKH司令官と陸軍大臣
「総統閣下困ります、我々の頭ごしに進められては」
俺は総統執務室でお叱りを受けていた。
「全くもってその通りです、陸軍の全権は陸軍総司令部OKHに委ねられているはずです!兵器開発に勝手に口出しをされては、軍の運営に支障をきたします!」
(ほんと、陸軍だけは一筋縄ではいかないな)
思わずため息が出そうになる。
道理でちょび髭が武装親衛隊を組織したりするはずである。
一番厄介なのに一番力がある。
プロイセン軍人は政治に関与しないというのが彼らの信条であるからそうなる確率は低いが、彼らが本気を出せば独裁者なんていとも簡単に吹き飛んでしまう。
そうならない為にも、ちょび髭党とちょび髭個人に忠誠を誓う武装組織が必要だったのだろう。
(とは言え親衛隊は凶悪すぎる。どこかで手を打つ必要があるな・・・)
この世界線では、少なくともライヒの軍人に虐殺行為などさせない。
戦争を決意している身の上でなんと都合のいい男だと笑われるかもしれないが、無駄な殺戮をしたいわけではない。
「フロンベルク陸軍大臣、フリッチェ陸総司令官。それはすまなかったな。グデーリアン君の著書を読ませてもらったらいてもたってもいられなくてな!いやー、彼は優秀だ!機甲師団とはワクワクする響きであるな!」
「それはそれは・・・我々もまだ読んでおらず不勉強を恥じるばかりですな。」
「閣下もよくあの変わり者のグデーリアンに付き合えるものですね」
こういう時はちょび髭の記憶に頼るに限る。
二人とも完全に苦笑いだが、ひとまずは矛を収めてくれたようだ。
「二人ともちょうど良いところにきた。諸君ら陸軍には新たな兵器の開発を指示したかったところなのだ」
「それは一体どのような兵器でしょうか?」
そう問うてくる大臣の顔は訝しげだ。
なんせこのちょび髭という男はデカい兵器が大好きだ。
デカければデカいほどいいと考えている。
そしてデカい兵器というのは高い・扱いずらい・故障が多いの三拍子が揃っていることがほとんどだ。
4発爆撃機のようにデカくないと務まらない兵器もあるが、大抵の場合はポイントを押さえたそこそこの兵器の方が現場の受けはよかったりする事が多い。
「うむ、諸君らも諸外国の兵器の情報収集をしていると思うが気になる情報が私の手元にきたものでな。諸君らは合衆国が新型銃の開発に成功した噂はきいているかね?」
「えぇ、おぼろげにといった感じではありますが・・・。なにやら半自動小銃というものだそうですね」
ほう。流石はOKHのトップ二人だ。
海の向こうの国がどのような兵器を導入しようとしているかの情報もきちんと収集しているらしい。
「どうやら部隊の戦闘能力を飛躍的に高めうるそうではないか!ライヒにも是非必要と私は考える!早速開発したまえ!」
「総統閣下、半自動小銃というのは弾薬の消費を加速させます。ライヒにとってそれはいかがなものでしょうか?」
「閣下、フリッチェの言う通りですぞ。そもそもライヒで採用しているモーゼル弾は強力です。そんな強力な弾薬を連射など、仮に銃を作れたとしてもろくすっぽ狙いも定まりますまい」
『これだから素人は』とでも言いたげに2人は言葉を連ねる。
(腹立つなぁ、ちょび髭でなくとも粛清したくなるぞ)
「諸君は頭が固すぎる!弾が強力すぎるなら発射薬を減らせばよかろう!それに諸君はなにか?弾を連射してくる敵に対しチマチマ撃ち返して戦うようライヒの兵士に言うつもりか!弾が足りないというのであればシャハトかトートと話をしろ!兵站体系の見直しを行え!」
「総統閣下、あくまでそれは合衆国の話で」
「ソビエトも試作中と言うではないか!諸君は共産主義者共にも劣る軍隊にライヒをするつもりか!なにも明日から生産しろとは言うとらん!全部隊に装備せよとも今はいわん!だが、ライヒが世界からおいて行かれることは断じて許さん!」
「「・・・」」
ちょび髭流のぶちぎれを前に二人は黙り込む。
このモードになったちょび髭が止まらないことは、この国のトップの人間なら皆が知っていることだ。
(もっとも今回はこちらにも理があるってこともあるせいだがな)
なかなか頭が硬く、誇り高い陸軍は非常に厄介ではあるが、彼らも無能ではない。
むしろ比較的論理的物事を考える軍隊である。
おそらく陸軍内でも同じような意見が出ているのだろう。
実際、史実においても独ソ戦以前から半自動小銃の研究を陸軍は開始している。
「すぐに検討に入りたまえ!」
「承知いたしました。ではこれにて失礼しま・・・」
「まだ終わっとらん!まだ大砲の話が残っている!」
俺はそそくさと退散しようとする陸軍大臣とOKH最高司令官を引き留め、もうひと話するのであった。