26 陸軍兵器改革 幕間
1936年11月某日 陸軍兵器局第6課にて
「グデーリアン!いったいこれはどういうことだ」
「どういう事もこういう事もありません!ライヒには新型戦車が必要なのです!」
「いや、この前3号戦車のトライアルが終わったばかりであろう!」
「あの3号戦車では早晩使い物にならなくなります!」
私、グデーリアンは妥協しない。
なぜなら中途半端な妥協は電撃戦の精神を殺してしまうからだ。
「かといってトライアルのやり直しなど認められるはずないだろう!」
「総統閣下からの直々のご指示です。リーゼ技術局長も海軍や空軍の話はきいておられるでしょう!」
「・・・」
私は伝家の宝刀『総統閣下のご指示です』を使うことにする。
独自性を重んじる陸軍のなかでこれを使うのは孤立化にもつながる諸刃の刃だが、電撃戦はライヒの必須戦術だ。
孤立化がどうこうなど寝ぼけたことはいってられん。
「とは言ってもだな、、グデーリアン。こんな細かいところまで閣下がおっしゃっていたのか?」
他の将校が疑問を呈す。
私が総統という虎の威を借りる狐なのではないかと疑っているようだ。
(それが驚くことに総統閣下の指示なのだ)
実は私自身、総統の細かい指示には驚いた。
開発コンセプトという大枠を超えて、仕様書の域にまで食い込んだ指示。
私は、私自身が黒板に書いた要求項目を再度確認する。
4号戦車
・25トン級戦車とすること
・歩兵支援用(短砲身75㎜)と対戦車用(長砲身50㎜)
の2種を当初はつくること
・最終的には長砲身75㎜砲を搭載出来るようにすること
(目途は1940年とする)
・40km以上の速力を発揮すること
・前面装甲は傾斜装甲とし、50㎜砲などの対戦車砲
に対し十分な防御力をもつこと
・履帯幅を45㎝とすること
・1938年までに本格量産に入る事
3号戦車
・30トン級戦車とすること
・武装は4号戦車に準じること
・40km以上の速力を発揮し、良好な野外走破性を
確保すること
・トーションバー式サスペンションを使用すること
・前面装甲は傾斜装甲とし自らの75㎜砲に対しても
良好な防御力を確保すること
・エンジン・変速機は後方配置とし、ウインチアップ
で一体として交換できる構造にすること
・履帯幅を50㎝とすること
・1939年までに本格量産に入る事
かなり細かい。
とくに3号戦車は様々な新機軸を要求されている。
サスペンション形式や履帯幅の指定など、どうしてここまでこだわる?と私も疑問に思ったほどだ。
しかもさらなる戦車の原案まで提示されている。
こんな大型戦車が本当に必要なのか?!
とは私自身も思う。
(だが、不思議な説得力があった)
なぜ海軍や空軍が急激な方針転換を受け入れたのか疑問だったのだが、ある種の納得を私は得ていた。
(総統閣下には全く迷いがない)
私が電撃戦理論を推す以上に迷いがない。
私も自分の考えは貫く方だが、あそこまでの確信はもてない。
(未来のことのはずなのに、既に起きた過去のことを語るようだった)
細かい仕様に関しても、理想の形がすでにあり、現在の技術で量産可能なラインはどのあたりか、というのを検証しながら決めているようですらあった。
(流石はライヒを率いるお方というわけか)
私は改めて総統閣下の底知れなさに畏敬の念を抱きつつ、頑迷な兵器局の人間とやりあうのだった。