23 外交-4 ノイラート大臣とこれからの戦争
「大臣。大臣はドゥーエの戦略爆撃論を知っているかね?」
「イタリアの将軍が出版した本に書かれていた理論ですね?何やら将来の戦争は前線と銃後の区別なく爆撃する事で戦争が決するという話でしたか・・・専門外のことなのであまり詳しくはないですが・・・」
いきなり軍事理論が出てきたのに驚いたようで、ノイラート大臣がやや目を白黒させている。
「大臣。航空機の発展は目覚ましい。これからの戦争は前大戦とは全く違うものになるだろう。その最たるものが戦略爆撃なのだよ」
「し、しかし。非戦闘員の一般市民を巻き込む戦略爆撃はハーグ陸戦条約違反です!いくらなんでもこの文明化がすすんだ現代において行わないのではないでしょうか!」
大臣は『極論すぎます!』とでも言いたげに反論してきた。
(それが真実ならどれほど良かったものか・・・)
残念ながら未来人の俺は知っているのだ、人類が何処までも非道になれることを。
長崎・広島・東京・ドレスデン・・・
あげだしたらキリがない・・・
「大臣。その認識が間違っているのだ。これからの戦争、間違いなく戦略爆撃は実施される。そして、その規模は航空機が発展するにつれどんどん苛烈になる。今でこそ数トンの爆弾を数百キロ離れたところに投射するのがせいぜいだが、いずれ何十トンもの爆弾を何千キロも離れたところに投射できるようになる。そうなってはもう戦争どころではなくなる。互いにそれをしては互いの文明が崩壊することになるだろう」
俺はきたる未来をノイラート大臣に語ってみせる。
(流石に核のことは言えないし、言うつもりもないがな)
「・・・それで、今の時点での戦争ですか・・・」
「その通りだ大臣。そうなってはもう戦争どころではない。今の国境線で大国間の国境線は固定されるだろう。そうなったらライヒはどうなる?食料は自給できない、資源関係も石炭と鉄鉱石以外は全く自給できない。各種嗜好品もまったく自給できない。まるで中世よろしくライヒは世界の片田舎に没落するであろう!」
「・・・」
それを聞くとノイラート大臣は沈黙してしまった。
腕組みをして考えこんでいる。
(まぁ、いずれにせよ博打ではあるな。)
そうは言っても負けるくらいなら戦争しない方がいい。
実際、ライヒは戦争に負けることで今の領土からさらに領土が削られる羽目になるのだ。
いくらこれから仮に緊縮財政に入り経済が下向くといっても、全土が焦土となり東西に分割されるよりマシに決まっている。
だが、それは未来を知っている俺だから言える理屈。
国民は納得しないだろう。
ちょび髭党も納得しないだろう。
最悪おれが暗殺されてヒムラー・ゲーリング・ゲッペルスの三つ巴の泥沼になりかねない。
下手すればそこに共産主義者がつけこみ国が割れかねない。
「・・・総統閣下のおっしゃることはよく分かりました。しかし、仮に英・仏と戦わなければならないとして、勝算はあるのでしょうか?大日本帝国と手を組むことが勝利へとつながるのでしょうか?かの国は大陸への領土的野心を持っており中華民国と一触即発となっております。日中が戦争状態となった際に我々も巻き添えをくらうのではないでしょうか?」
(よくぞきいてくれた!)
「それについてなのだがな大臣。中華民国に派遣しているファンケルハウゼン将軍に伝えて欲しいことがある」
「??どういったことでしょうか?」
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「かくかくしかじか四角いキューブ」
「それは本当なのでしょうか?!いや、しかしそれが本当でしたら・・・閣下はどうやってこの情報を?」
「大臣。そんなこと明かせる訳がないだろう。だが私の耳はよく、手はながいとだけ言っておこう」
俺が伝えたことに驚愕を隠せない大臣の姿がそこにあった。