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22 外交-3 ノイラート大臣とライヒ

「それで閣下、追加のお話というのはどの様な・・・」


相変わらず不満そうな顔をしたノイラート大臣がいう。

どちらかというともう帰りたそうだ。


(居座りたがっていたリッベントロップとは大違いだな)


だが、リッベントロップ抜きで大臣と話す為にわざわざリッベントロップが次の予定がある今日この時間帯に会談をねじ込んだのだ。

話が終わるまでやすやすと帰すわけにはいかない。

話が長くなるぞというジャブ打ちとしてコーヒーを給仕に持ってこさせたほどだ。


大臣はいやそうな顔をしていたが・・・


「大臣。まず初めにこれだけは伝えておこう。私はリッベントロップよりも大臣を評価している。リッベントロップを外務大臣に据えるつもりはない」


「そう、ですか。それはありがとうございます」


不満そうな顔を意外そうな顔に一転させノイラート大臣はそういった。


「やつのやり方が良い方向に働くこともあるだろうが、近年の外交的成果は例外的なものだろう」


「では何故中華民国ではなく大日本帝国をとるのですか?かの国は資源・国力もなく、また新大陸の超国家とも軋轢を生じております。火中の栗どころか、火中のただの焼け石なのではないでしょうか?」


至極不思議そうにノイラート大臣が尋ねてくる。


「そうだなノイラート大臣。それを答える前に大臣にたずねたい。大臣は今後の欧州情勢・世界情勢はどうなるとみている?」


「そうですね、今のところの懸念としてはスペイン内戦とイタリアのエチオピア侵攻でしょうか?とはいえ、イタリアの孤立化はライヒにとって悪いものではないでしょう。英仏伊の対独包囲網が緩まることにつながります」


そう言うとノイラート大臣はコーヒーを一口のんだ。


「しかしながら結局のところ我がライヒ次第ではないでしょうか?ライヒがおとなしければ少なくとも欧州は静かなのではないでしょうか?」


そう言うノイラート大臣の眼光はするどい。


(流石だな。おそらくシャハトからも色々聞いているのだろう)


「そうだな大臣。欧州情勢は我がライヒの出方次第というところは大きいだろう。そして大臣。大臣もライヒの現状をよく分かっているだろう。ライヒがもうこぶしを実質ふりあげていっていることに気付いているのだろう?」


「・・・。しかし勝てませぬぞ。欧州随一の陸軍国と海軍国両方敵にまわして勝てる道理はございませぬ。」


(普通に考えたらそうなるよな)


この当時、フランスがほとんど持久も出来ずに破れるなんて誰も想像していない。

この当時の感覚ではアメリカ参戦など待たずともライヒは敗れ去るというのが常識的な欧州の軍事力に関する理解だ。


「では大臣はライヒはこのままでいいとでも言うのか?」


「そうは申しておりません。海外植民地を奪われ過大な賠償金を課されたライヒの現状には忸怩たるものが私もあります。ですがもう少し慎重に動くべきではないでしょうか?私も戦争を否定する訳ではございませんが、今必要なのでしょうか?5年になるか10年になるかは分かりかねますが、ライヒにとって戦争をするもっと良い機会がいずれ来るのではないでしょうか?」


これもまたこの当時の感覚だろう。

戦争は外交の延長に過ぎない。外交的に行き詰ったら戦争し打開する。

今の資源産出地をほとんど失ったライヒの現状もいずれは打開する。

ただし、その時期はいずれ、可能となったときに。


(だが、未来人の俺は知っているのだ。そのいずれはもう来なくなることを)


「大臣。そのいずれは二つの意味で待てない。一つは、今の経済状況が一気に悪くなると今度こそ共産主義者どもにライヒを乗っ取られかねない。最悪、ドイツ帝国の各地方がバラバラの国となり周辺諸国の草刈り場になるぞ。」


そういうと俺もコーヒーを一口のむ。


(コーヒーを飲めるのもいつまでだろうな)


そんな益体のないことがふと頭をよぎる。

だが、もう既にライヒは戻れないところまで来てしまっている。

これはそもそも前大戦の戦後処理の失敗と新大陸発の世界恐慌の収拾の失敗。

この二つによりもう既に次の大戦の引き金は引かれてしまっているのだ。


「それとな、大臣。大臣は一つ大きな勘違いをしている。それが『いずれ』がもう来ない理由だ」


「それはなんですか?」


「それはな、もう次の戦争なんていうのは10年後、20年後には起こらないのだ。いや。起こせないのだ」


俺はノイラート大臣に俺がライヒを戦争の道へ駆り立てる本当の理由を話すのだった。


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