1 目覚め
ひどい頭痛がする。
ワインや日本酒を調子にのり飲みまくった次の日のようだ。
「総統!総統!」
やたらと高い声で呼ぶ声が聞こえる。
見えているのに視えていない、声が聞こえているのに聴こえていない。
例えるなら寝起き直後のような自らの存在さえ不明瞭なそんな感覚。
「ヒムラー、やかましいぞ。私は大丈夫だ」
(ん・・・ヒムラー?)
そして微睡から覚醒へ移り変わるように、次第に自己の認識が定かになり、視覚・聴覚からの信号を情報として捉え始める。
「総統!本当に大丈夫ですか?!急に硬直されたので、このヒムラー生きた心地がしませんでしたぞ!」
「大袈裟だ。ヒムラー」
ゲーリングがいつもの気取った口調でヒムラーをたしなめる。
「ですが、総統。ヒムラーの言う通り顔色があまり良くないですよ。お休みになられたらいかがです?」
(ゲーリング・・・か。)
次第にピントが合う視界の中で、金髪の偉丈夫と眼鏡をかけた神経質そうな男がこちらをみている。
彼らの向こうには多くの人がおり、そのうちほとんどは各々の雑談と料理・音楽に気を取られ、主賓席周辺の違和感には気づいていない。
華美に飾られた広間には多くの調度品があり、その全てがこの場を華やかな祝賀の空気にする為に慎重に選ばれたものだとわかる。
だが、やはり今の自分にとって目につくのは調度品でも、列席する人間達でもない。
(ハーケンクロイツ・・・)
自分が生きてきた時代では、決して掲げられることがない旗。
掲げただけでも犯罪に問われることすらある旗。
その旗が会場でわが物顔でひるがえっている。
この旗が、この旗を掲げる集団こそがこの会場の主なのだと強烈に訴えかけてくる。
「そうだな。ゲーリング。少し酒が過ぎたようだ。私は失礼する」
すかさず傍らにいたヒムラーが声をあげる。
「総統がお帰りになります!」
さほど大きな声でなかったはずなのに、会場の皆が一斉にこちらに目を向ける。
(こちらの異変にほとんどの人間が気付いていないとおもったのは間違いかもしれないな)
「「「ハイル ちょび髭!」」」
(まぁ、そうなるわな。)
どうやら俺はちょび髭に転生したようだ。