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18 戦術空軍とルフトバッフェ

「・・・総統閣下、私は閣下のご期待に沿えていないのですか?」


ショックを受けた顔のゲーリングがそう言った。

よほどショックだったのか、すぐには言葉が出てこなかったようだ。


(可哀想に思う俺の中のちょび髭の記憶由来の気持ちはあるが、これもライヒの為だ)




シュレースヴィヒ空軍基地での大演説の後、俺はゲーリングから面会希望の連絡があった。

俺としては全く意外なことではなかった。


俺がトライアルの際に言ったことは全てライヒの為に必要なことだったと俺は考えている。


そして急激な方針転換でありルフトバッフェから総スカンをくらうかというとそんな事はない。


戦闘機自体もルフトバッフェ内で機動力重視か速度重視か意見がそもそも割れていたし、重爆に関しても今年の6月に亡くなってしまったが、故ヴェーファー将軍が推進していたこともありルフトバッフェ内でも重爆を推す声はあったのだ。


むしろルフトバッフェが重爆を取りやめたのは保有機数をいたずらに追い求めるちょび髭のせいでもあったのだ。


(息子が務める不動産会社の社長も物件の質ではなく数をいたずらに追いかけていたな)


そんななんの関係もないことをふと思い出す。


その会社の社長はオーナー社長で昔は神がかり的な直感力と運と実力で会社を一代で大きくしてきたそうだ。

その結果、ちょび髭も真っ青な独裁者と化していたそうだ。

晩年は、戦争末期のちょび髭よろしく周りの役員の諫言も聞かず会社は迷走し業績を落としていたらしい。


閑話休題。


「ゲーリングよ、お前のこれまでの我が党と私への貢献はよくわかっている。ルフトバッフェはこれからもお前に任せていく。お前がナンバーワンだ」


俺の言葉をきき、ゲーリングの表情が明るくなる。


「しかし・・・ではなぜ私に第二次4ヵ年計画を任せていただけないのですか!シャハトやましてトートなどよりも私の方が産業界に顔がきくはずです!」


(・・・そこがゲーリング、お前の勘違いしているところだ)


確かにゲーリングは産業界に顔がきく。

I・Gファルベンや鉄鋼王ティッセンなど企業・個人を問わずゲーリングを支持する人間は多く、ちょび髭党にとって間違いなく欠かせない存在だ。


だが、ライヒの産業界に今必要なのはテクノクラートなのだ。

岸信介やトートのような優秀な官僚による体系的な指導が必要だ。


官僚による強権的な指導には勿論デメリットもある。

産業界と官僚の歪な力関係や癒着などがその筆頭だろう。


それでもこれからの激動の時代を戦い抜く為には政府・ひいては官僚機構の強力な指導が不可欠だ。


だがゲーリングにそれをやれというのは酷だろう。

パイロットと官僚は相性がいいとは思えない。


実際、ゲーリングとその取り巻きが産業界の指導に失敗したことは歴史が証明している。


(とはいえゲーリングはライヒとちょび髭党に必要だ)


ゲーリング相手に一方的なパワハラは悪手だ。

となると・・・


「ゲーリング、お前はこれからのライヒがどうなると思う?」


「閣下・・・?」


正面から説得する他ないだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・なるほど。それで攻撃機と重爆ですか」


俺はそれから小一時間かけてゲーリングと話をした。

最初は困惑していたゲーリングもひとまずは理解してくれたようだ。


(と言ってもほぼ誉め殺しだがな!)


褒めて褒めて褒める!

捲し立てる!

相手を熱狂の渦に巻き込む!

こういうときちょび髭の恐ろしさを実感する。

まさに圧倒的カリスマである。

さすがはカリスマ系独裁者といったところだ。


「そうだ、重戦闘機、軽爆撃、雷撃機、偵察機。その全てを兼ねる機体を作るのだ。今までにはない全く新しい機体だ。全世界はルフトバッフェの慧眼に驚愕することになるだろう」


「おっしゃる通りです!早速、各社に要求を伝えましょう!」


やはり根っこはパイロットなのだろう。

新型機の話をしていると自然と目が輝いてくるのだ。


「あとは重爆撃だが、ドルニエとユンカースにこれまで通り試作を続けるよう伝えろ」


「わかりました、詳細を将校達と打ち合わせて参ります」


「うむ、頼んだぞゲーリング。お前が頼りなのだ」


「ハイルちょび髭!」


そう言ってゲーリングは部屋を出て行った。


(これで空軍はひと段落だな、後は・・・陸軍か)


この1936年というのはライヒにとってあらゆる兵器の開発が結実しつつある重要な時期だ。


だからこそ海軍・空軍と急ぎ会合の場を設けたのだ。

そしてなんとかこちらの構想を押し込んだが、陸軍は勝手が少し違う。


陸軍はドイツ帝国時代からライヒの宝であり中心だ。


将校たちは貴族階級出身の者も多くおり、能力も高ければプライドも高い。


そして何よりちょび髭をボヘミアの伍長と下に見ている節がある。

士官学校を出ていない、チビの陸軍の素人だと。


空軍なんてまだできて10年も経っていないほやほやのもので、ライヒはおろか全世界を見渡しても何が正解かわかっている人間などいないし、ある意味皆がそれを自覚している。


構成員自体も若手が多く柔軟なのだ。


海軍はライヒからすると亜流に過ぎない。

元が陸軍国のライヒにとって仮想敵はあくまでフランスとロシア。

イギリス海軍はある種ボーナスステージのようなものですらある。

(ヘルモードのボーナスステージだけどな・・・)


だが、陸軍は違う。

これまで積み上げてきたものがあり、実際前大戦末期においても浸透戦術を生み出すなど全世界に優秀さを見せつけてきた。

だからこそ外部からの介入を拒む。


現状、ちょび髭党の恐怖の象徴となりつつある親衛隊の力も十分に及んでいるとは言い難い。


むしろ再軍備を堂々と開始し、組織の規模が急速に拡大する陸軍の方に下手をすると天秤が傾きかねない。


(とは言え、一枚岩ではない。か・・・)


一枚岩の組織なんてこの世にはない。

陸軍総司令部OKHとてそれは同じだ。


ともあれ次が本丸だな。


俺はOKHの主だったメンツに総統官邸に参上するよう、通達を出すのだった。


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