17 幕間 ゲーリング
「・・・これは新型戦闘機のトライアルは振り出しに戻ったと言うことなのでしょうか・・・?」
2時間前と違い、お通夜状態となってしまったシュミット博士が言う。
(そんなこと知るか!私もさっき言われたとこだわ!)
と、内心思うが激昂するのは私らしくないし貴族らしくない。
ユンカーどもにバカにされぬ様どっしり構えなくては。
「総統閣下のご指示だ。それに・・・」
「もともと現場のパイロットからも出ている意見ではありましたね」
いらん事を言うウーデットを思わず睨んでしまって。
睨まれたウーデットは肩をすくめている。
とは言え、ウーデットも見かけより余裕があるわけではなかろう。
貧乏ゆすりをしておるのはバレているぞ。
「ん、うん。総統閣下のおっしゃる新型戦闘機や爆撃機の仕様については私は門外漢であり、私にはなんらの判断も出来ません」
咳払いをすると総統閣下お抱えの土木屋であるトートが語り始めた。
「ですが総統閣下のおっしゃることは合理的です。経済省の一員としてもダイムラーの主力エンジンDB600シリーズに関しては非常に重大な懸念を抱いております。」
「当社のエンジンは小型高出力な完成度の高いものです。さらには発展型の1000馬力級エンジンDB601もすでに量産可能なところまで来ております。一体どこに問題があるのかお伺いしたいところですな」
自社の製品を貶されてはかなわないとダイムラーの技術者が反論する。
「ではお聞きしますが、DB601は年間何機生産可能ですか?また、標準整備時間はいかがお考えになっておりますか?」
「それは・・・ライヒが求めるのであればいくらでも・・・」
「ほう、そうですか。ベアリング軸受を10箇所も使用していたり燃料噴射ポンプを採用したり、高度で複雑なシステムを組んでいるのにいくらでも量産できるとは!ダイムラーはさぞかし大規模な工場をお持ちなようで!ライヒの経済と産業を所管する組織の一員としては是非そんな素晴らしい工場を見せて頂きたいものですな!」
「・・・」
(嫌な言い方をするやつだ・・・)
とは言えゲーリング自身もトートの言うことに真正面から反論できる材料はない。
DB601が高度で凝りすぎた作りをしていることはルフトバッフェ内でも懸念する声はあった。
だが、総統閣下のおっしゃることも極端なのだ。
確かにDB601は生産性に難があるとはいえ、現状のライヒの工業力で十分生産可能なエンジンだ。対抗馬であるjumo211はDB601より比較的生産が容易とはいえ出力の割に重量、サイズが大きく、エンジンのサイズがもろに機体レイアウトに影響を与える単発戦闘機に搭載する場合、明らかにDB601の方が有利なはずなのである。
(なぜそこまで生産性を重視するのだ・・・?)
今日のトライアルで総統閣下は、やたらと生産性や整備性にこだわっておられた。
ついこの間までBf109の性能に満足しておられたはずなのだ。
それがここにきてこの急な方針転換。
まるであのちょび髭党嫌いのハインケルが出してきた試作機の方が好ましいとでも言わんばかりだ。
「かくかく然々・・、また、ライヒとして生産性向上のため各社の部品の共通化を・・・・」
トートがまだベラベラ喋っている。
総統閣下の肝入りというお題目で最近経産省がやっきになって進めている部品共通化の件だろう。
ライヒ中の航空機メーカーが集まっているこの場を絶好の機会と考えているのだろう。
「閣下、戦闘機をBf109にするにせよHe112にするにせよ、双方改良が必要というのは総統閣下のおっしゃる通りかと私も考えます。DB601が複雑なのもその通りです。経済省がしゃしゃり出てきているのは気に食いませんが、その結果一機でも多くの機体がルフトバッフェのものになるのは望ましいことです。ですが・・・」
「あぁ、そうだなウーデット。総統閣下のご指示された新型機開発の要求はルフトバッフェ自体の方向性にも関わることだ。一度閣下と別でお話しせねばならんな」
「おっしゃる通りかと」
(ウーデットのいう通り、総統閣下が先ほど開発を指示された機体の幾つかはルフトバッフェの今後のあり方自体に関わるものある)
私はウーデットに相槌を打ちながら、副官にメモさせた新型機体の一覧を見る。
新型攻撃機、新型重爆撃機の項目がそこにはあった。