16 幕間 タンク博士
総統閣下の演説を聞いた我々は空軍基地の会議室に押し込められていた。
ライヒ中の航空機メーカーとエンジンメーカーが集められているとだけあって、広いはずの会議室も過密気味に思えた。
「・・・これは新型戦闘機のトライアルは振り出しに戻ったと言うことなのでしょうか・・・?」
2時間前と違い、お通夜状態となってしまったシュミット博士が言う。
「総統閣下のご指示だ。それに・・・」
「もともと現場のパイロットからも出ている意見ではありましたね」
ゲーリング閣下とウーデット技術局長が沈んだ声で呟く。
総統閣下の演説もとい指導は1時間続いた。
途中からは新型機の仕様要求となり皆が慌ててメモを取り出したくらいだ。
メモ帳など持ち合わせていないゲーリング閣下は大慌てでお付きの者にメモをとらせていた。
ものによってはルフトバッフェのこれまでの仕様からかけ離れるものもあり、ゲーリング閣下やウーデット局長がその度に反論を試みていたが、総統閣下のいつもの大演説とカリスマを前にことごとく撃沈していた。
(だが、総統閣下の要求はこれまでもあったが今回はどこか趣旨が違うな)
これまでも総統閣下が仕様に口出しをすることはあったが、技術者の目線からするとトンチンカンで納得がいかないことが多かった。
だが、今日の要求は違った。
勿論これまでの方針と大きく変わる点は多くあり、真っ青になる技術者は多くいたが、皆がどこか納得した様子だった。
ルフトバッフェの将校の中にはゲーリング閣下の目があると言うのに、大きく頷いている者も多くいた。
(私自身も納得することしきりだったしな)
前大戦で騎兵部隊に属していたタンクとしては、『競走馬などではなく軍馬を』というのは非常に共感できることだった。
(むしろ私に語りかけているようだった)
自意識過剰かもしれないが、総統閣下は私に向けておっしゃっている気がした。
次期戦闘機に向けた意欲が湧いてくる。
残念ながら今回のトライアルはBf109かHe112の改良型で決定しそうだ。
だが、次は負けない。
そうして改めて仕様を脳に焼き付けるために手もとのメモをみる。
次期戦闘機 要求要項
・1938年末をトライアル期限とする。1939年から量産可能なものとする事。
・生産・整備が容易なること
・防弾装備の充実を図ること
・野戦飛行場での使用に耐える頑丈な足回りにする事
・ドロップタンクを使用可能とする事
・空冷星形エンジンを使用する事
・中口径機関銃を6門以上搭載可能すること
・600キロ以上の最高速度を発揮すること
・上記の速度、武装は1940年までに実現を目指すものとし、その他の項目を優先すること
容易ならざる要求であるのは間違いない。
600キロ以上の最高速度となると1000馬力級のエンジンでは実現困難であろう。再来年のトライアル時点ではそこまでの性能を求めないと言う事だが、逆に言うと『発展性を残しておけ』と言う条件にも聞こえる。
(だが、要求される仕様は非常に合理的だ)
この新型戦闘機が完成すればまさにライヒの空を守るにふさわしい機体となり歴史に名を残すことだろう。
(早く社に戻りラフを描きたい)
その戦闘機の設計者として己の名が刻まれる未来を妄想しつつ、タンクはこの過密状態の会議が早く終わる事を願うのだった。
要はFw190ですね。
登場が早まることでどんな機体になるのか?!
作者もまだ分かっておりません!