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1 ポーランド侵攻-1

1939年9月1日

「くそ、奴ら本当にきやがった!」


そう悪態をつきながらポーランド王国軍航空隊所属のヴィトルト・ウルバノヴィチ中尉は鳴り響くサイレンの中、愛機に駆け寄る。

部下達の手前、努めていつも通り駆け寄ったつもりだがその手は緊張でやや震えていた。


「中尉!もうエンジンは起動しております!いつでも行けますよ」


手を真っ黒に汚した整備兵がそう声をかけてくる。


「あぁ、助かる」


まだ朝日がポーランドのだたっ広い地平線からギリギリ顔を覗かせたくらいの時刻ではあるが、ここ数日はのんびり寝ている者などいなかった。

パイロットはもちろんのこと、本来休んでいるべき非番の歩哨の兵士に至るまで皆が起きていた。


いや、起きていたというのには語弊がある者も多い。


いつ戦争が始まってもおかしくない情勢の中で、寝付けなかった者も少なくなかったのだ。


整備兵もその口だったらしく、目の下にはクマが浮き出ていた。


だがそのおかげ(かどうかは分からないが)で、既に暖機運転を済ませていてくれていたのだからウルバノヴィチ中尉からしたら整備兵の不眠はラッキーとも言えた。


ウルバノヴィチ中尉が配属されているウウェンシュ飛行場は東部ポーランドに位置しており、ドイツ陸軍がすぐ襲来するなどということは考えにくいが、それでも底知れぬ緊張に基地全体が包まれていた。


だが、それも無理もない。


ドイツ側の『ダンツィヒか戦争か』の最後通牒の解答期限が3日前の午前0時までであり、期限から3日過ぎた今現在もドイツ側の最後通牒をポーランドと英仏はいまだに黙殺したままだったのだ。


正確には、公式発表されない水面下では様々な交渉を試みてはいたが、まともな交渉にならなかったが故に発表する内容が無く黙殺という形になってしまったというのが本当のところである。


そんなわけで正式な宣戦布告こそ発表されていないが、もういつドイツ軍が越境してきてもおかしくないというのが、軍はおろか一般市民にまでポーランド王国を取り巻く現状理解として受け止められていたのだった。


事実、おそらくドイツ軍機と思われる偵察機が頻繁にポーランド上空に飛来し、ウルバノヴィチ自身

も2回スクランブルで迎撃にでていたのだ。


そんな状況だからこそ普通は行わない『出撃命令を待たない暖機運転』の実施などといったことをここ数日整備兵が行なっていた。


通常だと貴重なガソリンを垂れ流すそんな行為は認められるはずもなかったのだが、事態の逼迫度合いに上層部も許可を出したのだった。


残念ながらその整備兵たちの準備は無駄になる事がなかった。


本日未明から一斉にドイツ軍は越境を開始。


情報が錯綜している事もあり、一介の中尉に過ぎないウルバノヴィチは詳しい事までは知らさせれていないが、ドイツ軍は攻撃を開始し奴ら自慢のルフトバッフェが前線に猛攻撃を加えているとの事だ。


そんな中ちょっとでも味方を支援すべく、ウルバノヴィチ中尉率いる教導飛行隊にも出撃命令が下ったのだった。


指令内容は至ってシンプル。


『西部戦線におもむき敵機をおとせ』ただそれだけ。


そのシンプルさがポーランド軍の苦境をウルバノヴィチ中尉のような末端兵士にも伝えていた。


「中尉、我々はどこに行けばいいのでしょう?」


隣の機体に乗り込もうとしていた部下が疑問の声を上げる。


具体的な目的地点を指示されなかったことで混乱しているようだった。


(そんなもん俺もわからんわ)


ウルバノヴィチも内心はそう思っていたが、上官の不安は部下に伝播する。

あえて余裕を装い、


「まぁ、とりあえずレグニツアに方面に向かおう。なに、敵機がいなけりゃジャガイモ野郎共に機銃掃射をプレゼントしてやろう」


と明確な(戦術目標は全く定まっていない)命令を下したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「くそ、やつら俺たちは無視か!」


空は広く、それに対して飛行機はあまりにも小さい。


まともな地上からの誘導もなしに敵機と巡り合うのは本来難しい。


難しいのだが幸か不幸かウルバノヴィチ達はルフトバッフェの爆撃機部隊と出会うことが出来た。


しかも護衛機を伴わない本来戦闘機にとって格好の獲物だ。


ウルバノヴィチ達も喜び勇んでスロットルを全開にしたのだが、すぐに過酷な現実に直面する事になった。


ウルバノヴィチ達はポーランド航空部隊の主力戦闘機P.11に搭乗していたのだが、この機体の最高速度は350km。


この時ウルバノヴィチ達が捕捉した爆撃機He111は最高速度400km。


追いつけないのだ。


6年前に制式採用されたP.11は日進月歩の航空機の発達の中で旧式化しつつあることは否めないが、それでも腐っても金属製単葉の機体だ。


複葉機を運用している国も少なくない中で決して世界水準を大きく下回っているわけではなかった。


相手がルフトバッフェ以外であったなら、少なくとも戦闘にはなったはずだ。


「ちくしょう!やつら、爆撃機ですら俺たちより早いのかよ・・・」


スロットルを限界まで開き、必死に追いかけるウルバノヴィチ達だったのだが全くルフトバッフェの爆撃機に追いつけなかった。


「ここまで、ここまで差があるのか・・・」


徐々に離れていくドイツ軍爆撃機をウルバノヴィチ達は歯噛みして見送ることしか出来なかったのだった。


「・・・仕方ない。一度基地にもどり仕切り直そう」


ウルバノヴィチ中尉は翼をバンクして僚機に基地への帰還を告げたのだった。


だが、この時ウルバノヴィチ中尉は知る由もなかった。


既に帰る基地がすでに存在しないことを。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ポーランド侵攻


ヴェルサイユ体制の終焉を告げ、また第二次世界大戦の開幕のゴングとなるこの戦役は過去の戦争と全くことなる始まり方をした。


ドイツ軍は陸軍の侵攻に先んじて2000機もの航空戦力を一気に投射。


その攻撃対象は前線部隊への攻撃のみならず、機関車の転車場や、部隊後方の物資集積所、変電施設など多岐に渡った。


前線部隊より真っ先に後方が攻撃されるなど従来の戦争ではあり得ない事だった。


そしてそれら後方施設の中でも航空基地は徹底的な攻撃を受け、その中にはポーランド東部に位置し比較的安全と考えられていたウウェンシュ飛行場も含まれていた。






91話(12 SchützenPanzerWagen)にしれっと割り込み投稿してます。

ちょっと今後は割り込み投稿のやり方考え直します。

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― 新着の感想 ―
>91話にしれっと割り込み投稿してます。 割り込みしたタイトル教えて貰えますか?
本当に最高でした❗️
小説面白いペースも良い最高でした
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