20 Götterdämmerung 1
なかなか更新出来ずすみません。
仕事もプライベートも少しバタついておりまして、、、
2月からは更新のペースあげれたらいいな、と思っております。
「それでハイゼンベルク博士、研究の進み具合はどうかね?」
「はい、閣下。理論はすでに概ね出来上がっております。後は物理的にそれが可能な機械を製作できるか否かです」
俺はカエル野郎共からの要求をきいた後、すぐにエウリカブルグの科学者を総統官邸に呼び出していた。
防諜の観点からエウリカブルグの人間を直接呼びつけるのは控えていたが、ことが事だった。
なんせその研究の進展の次第で、俺の今後の戦略がガラッと変わってしまうからだ。
「そうか。それはなによりだ。だが実際どうなのだ?工学チームはなんと言っている?」
俺がそうさらに問い詰めると、博士は慎重に言葉を選んで答える。
「率直に申し上げて、機械製造には多大な困難が伴います。」
(まぁ、そうだろうな)
遠心分離機。
読んで字の如く、遠心力を使って物資を分離する機械。
原理は単純で筒などを高速回転させて遠心力を生み出し、
重いものは外側、軽いものは内側といった具合に物資の比重差を用いて混ざり合った物体を分離する。
身近なところでは生クリームの精製などにも使用されるような、それ自体には目新しさはない技術だ。
それこそちょっと腕に覚えがある町工場のおっちゃんにも作れてしまうようなものである。
だが、今回分離しようするウラン235とウラン238のような比重差がほぼない場合だと途端に話が変わってくる。
決して遠心分離自体が出来ないという事ではない。
遠心分離という理論の特徴として、遠心力が強ければ強いほど微細な比重差であっても物質を分離することができるというものがある。
ウランの場合もそれが当てはまり、十分な遠心力を与えてやればウラン235と238はホエイと生クリームの様に分離することが出来る。
理論上は。
博士が言うところによると、直径30cmほど円筒を使用する場合、ウランを分離する為には最新鋭戦闘機用エンジンの10倍以上の回転数で遠心分離機をぶん回す必要があるらしい。
実に毎分4万回転以上となる。
一万一千回転でもまるで足りない。
どこぞの豆腐屋の店主も裸足で逃げ出す様な回転数だ。
まさに化け物である。
まさに機械製作技術の粋を極める代物だ。
高速回転でとんでもないGがかかっても変形しない頑丈な筐体材料を作る材料技術。
高速回転での軸のブレを最小化する為、真円に限りなく近い円筒を作るための高度な加工技術。
そして何より、高速回転を受け止める精巧かつ頑丈な軸受け製作技術。
どれをとっても生半可な工業基盤では作ることなど叶わない。
仮に完成品の図面があったとしてもこの時代の日本などでは試作機を作るのがやっとこさといったところだろう。
だが・・・。
「ですが工学チームによるとどうにか製造可能であるという回答が来ております。ウラン濃縮に必要な台数を確保するには年単位で必要とのことですが、製造自体は可能だとのことです」
『年単位』というところで少し声が小さくなったことを除いて、博士ははっきりそう言い切った。
(流石はライヒ、と言うべきか)
この時代のライヒの工業基盤は間違いなく世界随一だ。
量産技術と設備こそ合衆国に劣るが、工業基盤の質は世界一である。
「そうか。で、あれば博士、結論を聞かせてくれ。青天井の予算と資源配分があれば核分裂兵器は5年内に製造可能かね?」
国家方針を左右する研究。
地上に太陽を作り出す技術。
この時代に転生したのであれば真っ先に考慮する兵器。
そして閉鎖研究都市エウリカブルグを立ち上げた真の目的。
それは当然、核分裂兵器、通称『原子爆弾』の実用化だ。
それこそ俺が転生して真っ先に行ったのは、実はライヒの核研究状態の把握だったりする。
そしてなんと驚くことにライヒには核技術者・理論家がごろごろいたのだ。
それだけじゃない。
なんとチェコスロバキアがこの時代のウラン鉱石の一大産地だったのだ。
まさに核兵器開発にとってある種これ以上ないような環境だった。
おそらく史実では目先の戦局を捌くのに精一杯で『モノにならない可能性が高い、海のものとも山のものとも知れない兵器』にリソースをさけなかったのだろう。
だが、俺は知っている。
核兵器が今後数年内に実用の域に達することを。
なんなら詳細までは分からないが、核兵器の製造方法もざっくりは知っている。
技術研究において一番の困難はなにか?
それは研究している方向性があっているかどうかだ。
それを俺はクリアすることができる。
で、あれば開発を指示しない訳がないのだ。
(2度目の人生とはいえ、できれば今回もベッドの上で死にたいからな)
ちょび髭総統に転生したことを活かして歴史を作り替えたいという野望があることは否定しない。
世界を相手にまわした大立ち回りなど、一人の漢として憧れざるを得ない。
だが、一方で俺は狂人ではない。
もし保険をかけれるのであれば保険をかけたい。
史実通りライヒが連合国の国力に押しつぶされるとき。
あるいは何か想定外の外交的環境に追いやられたとき。
そんな時に俺の立場を保証してくれる強力な保険。
そしてその保険の正体がこれである。
「はい、今のままの研究体制であれば可能であるといえます・・・。」
そう博士は言い切る。
だがそう言い切る博士の顔にはなんとも言えない複雑な表情が浮かんでいた。
「なんだ、博士。その割にははっきりしない顔だな。何か言いたいことがあるのかね?」
『大丈夫だ、何を言っても構わん。忌憚ない君の見解を聞きたい』そう言って俺は博士に言葉の続きを促す。
「・・・。閣下はこの兵器を使用なさるつもりですか?」
しばらくの躊躇いの後、博士は口を再び開いた。
「この兵器はこれまで人類が手にした兵器とは一線を画すものとなります。いくら敵国とはいえこれを使うのは・・・いち科学者として懸念を覚えます」
(ほう・・・。なかなか言うね)
そう言う博士の顔には恐れと固い意志が浮かんでいるように見えた。
(まぁ、平時の感覚ではそれが当たり前だろうな)
自分が住む町、故郷を焼かれているならまだしも、平時の今で大量殺戮兵器を開発することに一定の忌避感を抱くのはある種当然と言えるだろう。
「あくまで保険だよ博士。とてもじゃないがこんな兵器はお互い撃ち合うことなど出来ん。ある意味では核兵器は最強の防衛兵器といえるだろう」
それを聞いた博士の顔色が少し明るくなる。
核兵器とは疑う余地なく最強の矛だ。
そして最強の矛は、最強の盾となり得る。
MAD(相互確証破壊)戦略とは、まさにそれを体現しているといえる。
「だがな、博士。それが通用するのはこちらが先に実用化した場合だ。もし敵が先に実用化に成功すれば、ライヒは敵のいいなりにならざるを得なくなる。それこそヴェルサイユ条約など可愛く思える条約を結ぶ羽目になるかもしれんぞ」
「承知致しました。1日でも早く実用化出来るよう努力いたします」
俺に発破をかけられ、少し緩んでいた博士の顔が引き締まる。
核物質という危険極まる代物を扱う博士を過度に急かすのは禁物だが、タイムリミットへの危機感を持ってもらう為に多少の鞭は必要だろう。
「あぁ、頼んだぞ博士。君の研究がライヒの運命を決めるのだ。足りないものがあればなんでも用意する。よろしく頼むぞ」
『娯楽品、嗜好品でもなんでも遠慮なく言ってくれ』と飴も一応俺は博士に渡すのであった。
核兵器はこの時代を描く上で避けれないテーマだと思います。
そしてもし自分が転生したとしたら、真っ先に実用化を目指す代物です。
問題はどこまで徹底的にやるかです。
あと、実際のところアメリカは遠心分離機でウランを濃縮したのではないそうです。
電磁分離という力技で行ったそうです。
そういう意味ではそちらの方法をとった方が史実に近いのでしょうが、私が知らなかった事なので遠心分離方式を採用しました。




