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17 困惑

フランス第三共和制政府において大統領を務めるエドゥアール・ダラディエはやきもきしていた。


「大臣。本当に大丈夫なのだろうな?」


「大統領閣下。ご安心ください。表向きはドイツも強硬な姿勢ですが、水面下では妥協点を探る交渉を持ち掛けてきております。彼らの軍事行動はあくまでフェイクと思われます」


外務大臣は自信ありげそう答えた。


「そうか・・・だったらいいが」


上向かない国内景気と混迷する政治情勢の分かりやすいガス抜きとして、ダラディエ内閣はドイツに賠償金の支払いを要求した。


場合によっては軍事行動も辞さないという姿勢のもと、かなり強硬に要求を突きつけたのだ。


表向きは。


表面的にはかなり強硬に要求したが、同時に裏の外交チャンネルでは落とし所の交渉を持ち掛けてもいた。


『チェコの件なども見逃してやったんだから、ここは一つこちらの顔をたてて欲しい』といった具合だ。


昨今、やや物分かりが良くなったドイツ政府に『外交のプロレス』を持ち掛けたわけだ。


ダラディエもドイツが要求通りに賠償金を支払いだすとは思ってもいなかったし、それでドイツが本気でヘソを曲げて戦争にでもなる方がよっぽど具合が悪いと考えていた。


別にそれは、『戦争反対!』という平和主義者的な発想をダラディエが持っていたからではない。


シンプルに現状のフランス軍ではドイツ軍とまともに戦えないと判断していたたけだ。


陸軍の師団の数は多いものの、十分に近代化されているとは言えず、航空部隊はルフトバッフェに対し控えめに見ても圧倒的劣性。


ドイツに対し確実に優位なのは海軍くらいだが、ドイツとの戦争には直接の影響はさほどない。


(やるにせよ今はその時ではないという事だ)


マジノ線があり、またかつての宿敵であり頼るのは腹立たしい事ではあるがイギリスという強力な同盟国がいる以上負けはない。


負けはないが、わざわざ戦力が整っていないこの時期に戦争するほどダラディエも冒険したい訳ではなかった。


「ドイツのノイラート外務大臣からも落とし所の交渉の申し入れがきております。おそらくドイツ側も過度に事を荒立たせず、最終的には交渉で決着すると思います。」


「・・・だったらいいがな」


そう言ってダラディエは机の上の報告書をチラリと見る。

在ベルリン大使館から送られてきたその報告書には、ドイツ国民が資産階級、労働者階級を問わず激昂しているという報告と、ドイツ軍の過剰反応とも言える大規模な軍の動員についての速報が記されていた。


「ガムラン元帥。ドイツは軍を動員したということだが、元帥はどうみますか?やつらは本気で戦争する気だとおもいますか?それとも交渉の為のブラフだと思いますか?」


「難しいところだな」


陸軍トップのガムラン元帥は顎をなでながらそういった。


「やつらの発表した動員規模からすると本気で戦争をしようとしているようにも見える。歩兵部隊もザール地方に移動を開始した部隊もいる。戦争に備えた動きをしているようにも感じられる」


『だが』とさらに元帥は言葉を続ける。


「一方でやつらご自慢の戦車部隊は駐屯地から動いていないという情報も入ってきている。ザール地方に展開した歩兵部隊もこれまたやつらご自慢のジークフリート線に引きこもるばかりで攻勢用陣地をつくる様子もない。」


「・・・となると、我々の要求に対する『外交カードとしての動員』になりますか?」


「分からん。だが、軍としては万が一の時の為に準備する必要がある。軍としてはこちらも少なくとも動員はかけるべきだと提言する」


『彼我の戦力を考えると今時点の開戦は避けたいのが本音だがな』と言いつつも、ガムラン元帥はドイツの動員にあわせる形で軍の動員をダレディエに求めた。


『万が一戦争になってもマジノ線がある限り負けはない』という自信から、軍としても政府の強硬姿勢の外交方針につきあうことにしたのだった。


これはイギリスという強力な同盟国の存在と、ポーランドという陸軍大国(質はともかく数はなかなかのもの)がドイツの東側に存在していたことから、よっぽど短期間で東側が片付かない限り最終的にはドイツに勝てる公算が大きかったからである。


この時期ドイツはチェコスロバキアを事実上併合したことで、ポーランドとチェコスロバキアが係争していた領土も丸ごと併合しており、そのことが発端となりポーランドとの外交関係は悪化していた。


そんな状況だったので、万が一フランスとドイツが開戦した際には同盟国として東側から参戦するのがほぼ確実であった。


「わかりました。軍の動員を許可します。ただし」


「分かっている。こちらもマジノ線に駐留する人間を増やすくらいに実態はとどめておく。攻勢用陣地の構築などはせんよ」


こうしてフランス政府もドイツの軍隊動員に反応する形で軍の動員を決定。

『場合によっては実力行使も辞さない』という姿勢をドイツに突きつけた。

そしてフランス政府の要請をうけて英波ともに軍の動員の検討を開始。

実態は外交上の駆け引きが発端とはいえ、外形上は一気に情勢が緊迫していくのだった。



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1939年当時のフランス政府の外交方針については多くの歴史家の間で議論の的となっている。


口さがない者は、ダラディエ大統領を初め当時のフランス政府の人間は彼我の軍事力を見誤った無能集団という者すらいる。


同情的なでのフランスのドイツに対する優位性などを考慮するとフランス政府の姿勢は一定の合理性があったと評価する。


実際のところ国防大臣の経験もあるダラディエ大統領はドイツ軍に対するフランス軍の劣勢具合をよく理解しており、ドイツを過剰に刺激しないよう心を砕いていたというのが本当のところであり、当時のフランス政府は概ね正確な現状分析を行っていたというのが後世において大多数の歴史家が認めるところである。


しかしながら現状分析を正しく行なっているにも関わらず、国内世論に押される形でフランス軍の準備が整っていない不適切なタイミングでドイツを不用意に刺激したこと。


ドイツ国民の反応を過小に見積もってしまっていた事。


そして何より、ちょび髭総統の外交スタンスが変わったものと勘違いした事で、ちょび髭総統の反応を完全に読み間違えた事。


これらの事からダラディエ大統領や当時のフランス政府が後世の人間の評価は総じて高くないという事もまた事実である。

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― 新着の感想 ―
面白いですね。 ヒトラーに転生と言う発想が面白いし、ドイツから日本を支援すると言うのも面白い。 頑張ってください。
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