10 海軍再軍備-2
「総統閣下、お言葉ですが航空機で主力艦を撃破することは不可能です」
流石にゲーリングにまで言われたのは海軍提督として聞き捨てならなかったのか、デーニッツが反論してきた。
(まぁ、この感覚がこの時代の標準的な海軍軍人の考え方だよな)
「では、デーニッツ。250キロ爆弾の被弾に戦艦は耐えれるか?」
「当然です。装甲区画は優に250キロ爆弾を防げます。」
何を当たり前なことをといった顔でデーニッツは答えてくる。
「では500キロ爆弾だと耐えれるか?」
「重要装甲区画は十分に耐えれると思います」
「では、最後の質問だ。500キロ爆弾を複数被弾した上で戦闘力を保持できるかね?」
「そ、それは・・・。で、ですが、総統閣下!現状そんな爆弾を戦艦に命中させることは極めて困難と小官は考えます。500キロ爆弾となると双発以上の航空機のはずです。そんな鈍重な航空機など戦艦の対空砲火で容易に落とせるはずです」
この当時の認識としては至極正しいことを言うデーニッツ。
現時点では正しい。
もしかしたら戦争さえ起きなければ、航空機の進歩は遅れ、後10年くらいはその認識が続いたのかもしれない。
「ゲーリング、採用予定のスツーカはいつ500キロ爆弾を運用する能力が備わる?」
「エンジンを鋭意開発中といった段階ですが、2年内には可能かと思います」
どこか得意げにそう伝えるゲーリング。
(まぁ、その笑顔は再来週凍るとは思うがな)
結局、先日ゲーリングに伝えたライヒ航空業界総結集となる会合は、さまざまな試作機のお披露目なども兼ねて、当初の予定より3週間遅れでの実施となった。
かなりの方針転換をまたも伝える必要があるが、それはその時考えよう。
ゲーリングにそう言われ、言葉を失っている海軍提督二人に俺はいう。
「レーダー、デーニッツ。これからの海軍は従来とは全く異なるものになる。それは我がライヒだけではない。各国そうなる。戦艦と航空機では進歩の速度が違いすぎる。戦艦の世代交代は20年単位に近いが、航空機は2年単位だ。もうすぐ戦艦の時代は終わる」
「・・・だからこその航空母艦ですか」
(お、気づいたか)
「そうだ、航空母艦こそ海軍の主力艦となる日がもうじきくるのだ!イギリス・フランスには戦艦を好きなだけ作らせておけば良い。ライヒはその間に航空母艦を建造し、新たなる大西洋艦隊を作り上げるのだ!」
(まぁ、実際ものになるのは戦後だろうがな)
大西洋艦隊の夢をぶら下げとかないと、海軍はヘソを曲げるだろう。
とりあえずは起工予定のグラーフツェッペリンは設計を大幅変更し、小型の試験空母として建造することとするがこれは後で伝えよう。
本当はシャルンホルスト級も建艦中止したいくらいなのだが、もう進水してしまっている。
対空兵装の充実くらいの設計変更は伝えるつもりだが、今更史実の形から大きく変えることなどできないだろう。
「さすが総統です!天からの導きのような発想です!」
なぜかここでヒムラーの合いの手が入る。
なぜかとんでもなく目が輝いている。
(こわ!ヒムラーってオカルトにも被れているようだしなんか怖いんだよな)
中島勝としての意識も、ちょび髭としての記憶も両方どんびいている。
もちろん急な合いの手に執務室内の一同もどんびいている。
「お、おう。と、当然だヒムラー。」
思わず俺の反応も微妙な反応となってしまった。
「ん、んんん。それでデーニッツ、空母艦隊を作り上げるまでは潜水艦がライヒの主力となるわけだが、グレートブリテン島を封鎖するのに何隻必要だ」
咳払いの後、俺はデーニッツに尋ねた。
しばらく考えたのちにデーニッツは答えた。
「作戦行動に100隻、作戦区域までの往復に100隻、整備に100隻です。閣下」
「わかった。建艦計画をシャハトと協議したまえ。デーニッツ、土壇場で乗組員が足りないとは言わさんぞ」
「そ、総統閣下?!」
今度はシャハトが素っ頓狂な声を上げた。
「合計300隻ですぞ!いくらライヒの潜水艦が小型と言っても、300隻は無茶です。新型戦艦よりもよっほど高くつくではないですか!」
「シャハト、勘違いしているぞ」
「そうですよね、失礼しました」
「100隻は小型だが、200隻は中型のものとする」
「なん・・・ですと・・・」
思わず立ち上がったシャハトが力なく椅子に崩れ落ちた。