9 海軍再軍備-1
「総統正気ですか!」
「レーダー提督!言葉がすぎますぞ!」
さて、またしても既視感のあるやりとりだが、目の前でやり合っているのは海軍のレーダー提督とヒムラーだ。
実はもう一人、デーニッツ提督も部屋にはいるのだが、「こんな時どんな顔をすればいいのか分からないの・・・」状態で微妙な顔をしている。
「総統!新型戦艦の建造中止とはどういうことですか!あれは、あれは海軍の悲願です。シャルンホルスト級に対抗して各国が新型戦艦を計画しているではありませんか!それらの新型戦艦に対抗するためにも、ライヒにもより強力な新型戦艦は欠かせません!」
(レーダー提督の立場だとたまらんだろうな)
俺が今日、レーダー提督、デーニッツ提督、親衛隊のヒムラー、経済相のシャハト、そして航空相のゲーリングを呼んだのは海軍再軍備計画の大幅な見直しを伝えるためだ。
そのうちヒムラーは今日の話にはあまり関係がないのだが、ちょび髭に心酔している上、恐怖の親衛隊を束ねる立場の人間がいるのは、提督たちへの強烈な圧となる。
それくらい今日はいくつかしんどい話をしなければならない。
その最初のものが新型戦艦および重巡洋艦の建造中止、さらには起工予定の新型空母の大幅な設計変更だ。
「レーダー提督、海軍の悲願は理解できる。海軍の悲願はライヒの悲願だ。だが、我々は現実を見なければならない。今のライヒにイギリス・フランス海軍を正面から打ち破れる海軍が作れるかね?」
「そ、それは・・・」
レーダーは口ごもった。
そもそもこのレーダーという男は寡黙な男なのだ。
あまり会合でも喋らない無口なタイプ。あまり口が上手い方でもない。
だが、そんなレーダーも黙ってはいられないほどの衝撃が、この海軍再軍備計画の中にはあった。
「イギリス・フランス海軍に正面から対抗するのが難しい以上、ライヒがとる海軍戦略は分かるな、デーニッツ」
「通商破壊作戦ですね」
流石に上司のレーダー提督の前とあって気まずそうではあるが、デーニッツははっきりとこたえた。
「そうだ、ライヒの取るべき道は通商破壊作戦だ。今後の最優先目標はイギリスを屈服させるのに十分な規模の通商破壊部隊を整備することだ。」
「し、しかし、総統閣下!敵の水上部隊が出てきた場合はどうなるんですか!貧弱な水上部隊ではバルト海から出ることすら叶いません!」
この認識がこの時のドイツ海軍の考え方の不思議なところなんだよな・・・
なにゆえわざわざ水上艦で通商破壊を試みようとするのか。。。
おそらくこれは目的と手段が逆になっているのだ。
過去、第1次大戦前にイギリスと覇を競った大西洋艦隊を再建したいのだ。
それが目的となり、その為の手段として通商破壊作戦を考えているのだ。
誰がどう考えても、通商破壊作戦は潜水艦で行った方が効率がいいに決まっているのだ。
潜水艦がいるというだけで、相手国は護衛船団を組まないと行けなくなるし、海域によってはの字航法という、ランダムに進路を小刻みに変えるといった航法を取らないといけない。
の字航法ってのは要はジグザグに進むってことだ。
到着にかかる日数は長くなるし燃料も無駄に消費することになる。
護衛船団というのも問題だ。
護衛船団方式とは、従来五月雨式に各船が航路を進み目的地へ向かっていたのを、一斉に何十隻も集まり船団を組んで目的地に向かうということだ。
確かに潜水艦による被害は減るだろう。
船団が大きければ大きいほど護衛効率が上がるというのが、戦時中の教訓としても出ている。
だが船団規模が大きいということは、それだけ大量の船が一度に港湾に押し寄せるということだ。
港湾局は地獄を見ることになる。
コンテナシステムを導入してもいないこの時代の荷下ろしはとにかく時間と人手がかかる。
戦時中だということで、人手を緊急増員したとしても埠頭は急には増やせない。
港湾が完全に物資流通のボトルネックとなってしまうのだ。
「レーダー提督、そもそも潜水艦で通商破壊をするのであれば敵水上艦と戦う必要はないではないか。それに・・だ」
そしてさらにこれは現代人である中島勝の意識をもつ俺だから言えることなのだが
「ゲーリング、ルフトバッフェをもってすれば敵水上艦を撃沈することは可能かね?」
「はい、もちろん可能と考えております」
ゲーリングはしれっと答えてくる。
(まぁ、ゲーリングの場合は無邪気に航空機は最強!って考えてる節があるからの発想だがな)
1000PVと100ptと初レビューを今日頂きました。
筆者の乱文と妄想にお付き合い頂きありがとうございます。
書け次第投稿しておりますので、五月雨式の投稿となっておりますが、今後もよろしくお願いします。