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十一月十五日
○同二十一日。八つどきに、しのびて、こまつやへゆき、さて、みな、てらまゐりせられて、ただ十三四なる、わらはの、るすをもりして、い申されければ、しかたなく、折をさいはひと、のたれこみ、ねたり、おきたり、くふたり、琴をひいたりして、さびしく御ざ候なり。れいのひとの糸を、しめてやりけり。みれん(未練)とは、いまだねれず、とかく由。なにごとも、しゆげう(修行)だい一のこと。
うへもなき。ほとけの御名を。となへつつ。じごくのたねを。まかぬ日ぞなき。
(盲人独笑・太宰治)
葛原勾当の素朴なことばが沁みてしまう。じごくのたねを。まかぬ日ぞなき。
蒔きたくて蒔いている訳でもないのにね。と、言ってあげたくなる純朴さなのだ。ずいぶん前に私の落としてしまった善いもののひとつ。かくありたし。




