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十月二十三日
「──(前略)──とにかく君の本体なるものは活きた、成長して行く──そこから芽が出る吹くとか枝が出るといったようなものではなくて、何かしら得体の知れないごろっとした、石とか、木乃伊とか、とにかくそんなような、そしてまったく感応性なんてもののない……そうだ、つまり亡者だね」
「……」
(遁走・葛西善蔵)
ひでぇこと言ってやがる。友人だからってあまりに辛辣過ぎないか、とは思うものの、まあそれだけ言ってまだ友達でいられる関係性なのだろう。それにしてもひどい。
もう少し手心あって良さそうなものだが、まぁそういう、なんと言うか行き届かない作家の造形なのだろう。
それにしてもこの辛辣な言葉には、主人公も、これを言われたと想像する私自身も、ぐうの音も出ない。これはこれで、そういう造形であるのに違いない。
私はといえば、亡者程ではあるまいが、とかくこの世は住みにくい。何せ世間の皆々様と来たら、始終何かしら楽しいことを探していて、簡単にそれを見つけ、そして実際に楽しむことが出来るのだから。私には、そういう世間で「楽しい」とされている事の一切に、しんから楽しむことが出来ないでいる。さいわいは、山のあなたに。今日はここまで。




