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七月三十日
えたいのしれない不吉な塊が始終私の心を圧えつけていた。焦燥と言おうか、嫌悪と言おうか──酒を飲んだ後に宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなくなった。蓄音器を聴かせてもらいにわざわざ出かけていっても、最初の二三小節で不意に立ち上がってしまいたくなる。何かが私を居堪らずさせるのだ。それで始終私は街から街を浮浪し続けていた。
(檸檬・梶井基次郎)
私も檸檬がほしい。概念檸檬が。つまりはこの重さなのだな、と、ただ実感させる何かが私には必要なんだろうと思う。それがこの現実への錨になってくれると信じる。
最近は馬鹿みたいに漫画を読み続けている。推しの子、違国日記、HUNTER×HUNTER、さんかく窓の外側は夜。明日仕事でもお構い無しに読みふけり、終われば、何かふわふわとして地に足がつかない。夢遊病者みたいにおぼつかない足取りでどうにか生活している。




