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四月二十一日
彼は気がつくと、空が落ちてくることを考えていました。空が落ちてきます。彼は首をしめつけられるように苦しんでいました。それは女を殺すことでした。
空の無限の明暗を走りつづけることは、女を殺すことによって、とめることができます。そして、空は落ちてきます。彼はホッとすることができます。然し、彼の心臓には孔があいているのでした。彼の胸から鳥の姿が飛び去り、掻き消えているのでした。
(桜の森の満開の下・坂口安吾)
桜も咲いたことだし、そろそろ死のうかとも思ったが、仕事の繁忙期とやらに流されて未だにずるずる、ずるずると生き続けている。バカバカしいことだ。死んだら仕事も何も関係ないのに。
安吾は恋のほかに人生に花はないと言った。ならば私は花を知らない。知ることもないだろう。何故といえば、素養に欠けるから、としか応えようがない。私とて、多少のロマンチシズムを持ちあわせてはいるだろうと思います。けれどもそれを積極的に求めようという気になれない。いや、このように書くと、まるで恋愛しなくてはならないかのようだが。
桜の森の満開の下の秘密は、誰にも分からないという。私は今年もゆっくりと桜を眺める時間を失った。




