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三月二十四日
寂れた温泉街で、男女がふたり、歩いている。このさびれた田舎町にあるたったふたりの若者なのである。橋を中ほどまで歩いて、つかれたのか、欄干に体を預けている。ふたりして、川の中をのぞきこんでいる。
何があるでもない、ただ黒ぐろとした澱みがあるにすぎないのに、何故か、目を離すことができずにいた。
「真っ黒だね」
「そうだね」
「地獄の窓みたいだ」
「そうかもね」
そうしてまたふたり、黙って川の中を覗き込み続けた。
(無題1)
ようやく日記のことを思い出したのは良いものの、もう一週間くらい、何を書いていいものやら、悩んでいる。
身辺を静謐に保っていると、少しの波紋が大波に感じられる。池が小さいのである。池を大きくしたいと思って、少し魚の多いところに出てみれば、たちまち衝突して、波が起き、しかし大したことは、ない。これがクジラの衝突なら大波だろうが、幸いなるかな、小魚の衝突にすぎないので、小さな波紋が、起きた、と思ったら消えてしまう。大したことはないけれども、小魚にとっては、大事件。
察せない私では、なんにも愛せないんだろうか。何か、できるだろうか。いまは、少しだけあがいてみたい。逃げるにはまだ早い。




