暴漢たちのむそう
完全に調子に乗った。
アネスティのそっ閉じは訪問者たちの残虐な意識に火をつける。婆やを生贄に逃げたのだ。それはすなわち、この女に対しては何をしても良いという事。これはもう、貢物以外の何物でもない。
「おぃおぃ~!つめてぇなかまだなぁ!カギ、シメラレチャッタヨォ!?」
挑発?いや、彼女に話しかけているように見せかけて、実際は仲間の残虐性を煽っている。
これからの展開を夢想してニヤニヤが止まらない訪問者たちの表情を見たリーダー的存在は、自分の承認欲求を満たされるのを感じた。だが、これで満足する俺じゃないんだよ。とばかりに新たなセンスに満ちた言葉を繰り出す為に口を開く。
「ぶっ!」
飛んだ?
「広報たちょォッ!?」
ソコにいたはずの後方隊長の姿がない。みんなの憧れ、広報隊長は婆や払った手の衝撃で二メートルほど離れた所で気を失っている。幸いにも周りの仲間がクッションになっていたようで大きなけがは無いようだ。
「たいちょぉ…。」
心配した仲間が周囲を覆う。しかし、彼と婆やの直線状に入ってくるものはいない。心配はしているのだが、巻き添えは食いたくない。いや、本音を言えば心配しているのは彼が標的ではなくなった後の自分の身の安全だった。
訪問者たちの力ある瞳に微かな影が射す。拠り所を求めた彼らの視界にいた男が動いた。
その体は自分の意思とは関係なく、小刻みに震えている。恐らくは武者震いと言うやつだろう。
小刻みに震えながら前へ出て婆やと対峙する親分の顔を見た婆やが警戒する。
顔が蒼白に変化していく、そして唇も青黒く染まった。これと言った気配は感じられなかったが、何かの術を使った可能性がある?油断はできない。何かしら動けば、こちらも…。
警戒を強めた婆やに親分が
「そのっ!」
場に崩れ落ちた親分は股間を抑え、白目を剥いて失神した。
訪問者たちが雲の子を散らすように逃げえ始める。
その中で一人、副親分だけは婆やを指さし言い放つ。
「その顔覚えたからな!今度会ったらタダじゃおかねぇ!」
敗走時の礼儀。口上を述べた後は後ろも見ずに走り出す。
「良いわよ、私もあなたたちの事は残った人たちに聞いておくわね」
逃走中の彼らの動きが止まった。