契約の代償
色々あったけど、みんなお疲れ!
とはいかないようだ。
術を使ったヲネストの様子がおかしい。膝から崩れ落ち倒れた彼の肉体が徐々に蒸発しているように見える。
「入ってなかったんだ」
婆やのつぶやきにそこにいた幾人かが体を強張らせた。
桎梏特約
契約者の限界を超える能力を封じるための契約は任意だった。しかし今、そのことが災いしてヲネストは消滅しようとしている。
なすすべもなく見守る事しかできない魔王達の中で一人、婆やが動いた。
素早く腰のホルダーに手をやると透明な板を引き抜く。プレパラートのような大きさだがかなり薄い。
「っ!」
彼女が手にしたのは魔硝板と呼ばれる法具だ。それを視線の先にいるヲネストとの間に翳す。
しかし透明なはずのいたが血で赤くなっている。
どうやら取り出す際に指を切ったらしい。素早く血を拭って再びヲネストに板を向けると、大気へと昇華していた彼の肉体に変化が起こった。肉体は凝固し、光の粒となって板へと吸い込まれたのだ。
ヲネストを吸収した板は徐々に形状を変化させいていく。そしてそれはやがてコンタクトレンズのような形状にたどり着く。
「大丈夫そうね」
ここで婆やが呟いた。
どうやらヲネストが消滅する前に彼を封じることができたようだ。満足したように彼女が硝板を右の瞳に装着するのだが、拒否感からか彼女の瞳は自激しく充血していく。心配したトレイタが声をかけようとするのだが
「だいじょうぶ」
と言って少し微笑み、静かに右目を閉じた。
さっきの血のせいで少し透度が悪くなったかもしれないわね。
そんなことを考えながら笑顔で魔王達と打ち上げ会場に向かっていった。