魔王の真実
ヲネストの動きに誰よりも早く反応したのは侵入者だ。
ソレは闇に潜むことを止め動く。沈んだ闇に浮かび上がった侵入者の朧げな姿に他の魔王達も反応した。真っ先に動いていたヲネストが距離を詰めていく。肉薄する彼の視界には侵入者の姿がはっきりと捕えられていた。
恐怖か?もしかしたら動揺しているのかもしれない。侵入者がヲネストを遮るように左腕を突き出す仕草を見せる。
その刹那、賊の瞳から激しい眼光が放たれたのだ。眩い光によって視界を奪われた魔王達の動きに僅かなラグが生まれる。閉店後の休憩モードから侵入者対策へと切り替える心の隙間を突く。疑惑が魔王達の心に生まれた。
肉薄するヲネストも、警戒心から距離を詰め切れずにいる。
「影か」
呟きながら動いたのは婆やだ。閃光によって視界を遮るのが目的ではない。これに気か付いた彼女の一言で魔王達が再び動きだす。侵入者の翳した手、照らされた光が生み出した影が不自然に揺らぐ。気が付けば五指のうち既に四指の影は放たれ、疾りだしていた。
この時ようやくヲネストが侵入者本体を確保する。激しい力で喉笛を抑えられた侵入者は最後の力を込めて影を放つ。
多少自慢げなヲネストが振り返ると魔王達は各々、影を追ってその場を離れていた。
「やっぱり狙われたのかな?」
影を追ういながらトレイタが婆やに問いかける。
今日、この日をもって彼らの契約が切れるのは、その筋では有名な話だった。この世界に現れた魔王達が契約によってこの世界で力の行使をしている事。力の制御が契約によって行われている事、世界で君臨する自分たちの力は契約によって支えられているのだが、魔王城閉館によってその効力が今宵、失われるのだ。
そこを狙われて…。
トレイタはランドルと環の空白部分に刻まれた契約の印に目をやる。そこには徐々に薄れゆく印があった。