名もなき実力者
「これは…」
住人の惨状を守辺りにして夜使いは愕然とした。
現環境についていけなかったとはいえ、デビューした当初は彼らと仕事がしたくて大金を叩く者たちが続出していたんだ。それが…。
打ちのめされた住人たちを見て、夜使いの心に激しい闘争心が芽生える。現役達は俺たちをどこまで苦しめるのか?と。
この思いが彼を吸血鬼の行く手に立ちはだからせる。そして同時に掴んでいた夜を解き放っていた。
だが、放たれた夜から孵った雛は彼の予想通り熟してはいない。それでも、ここで敵に好き勝手をさせればこの長屋は終わる。
せめて相手の夜だけでも…。
そんな思いで夜用ナイフを取り出す夜使いは、今夜の、出来るだけ良いところを雛にディップした。生まれたての夜獣には負担が大きく、しかも適合しているとは言い難い夜のディップは、この夜獣の寿命を縮めるだろう。長年バディを組んだ夜獣ならこんな奴らは瞬殺なのだが、ペット禁止のルールで今はいない。
造形も不十分なまま夜獣が吸血鬼の夜へと襲いかかる。夜使いの表情に反して吸血鬼の顔には薄笑いさえ浮かんでいるのが見て取れた。
しかし、それでも自分の率いた夜が激戦の末に敗れたのを見ると、吸血鬼は少しだけ気分を害したようだ。雑用とはいえ、自分の作った夜が消えるのはやはり気分がよくないらしい。
こんなことなら、あと数百体ほど連れてきた方が良かったか?
紳士の嗜みとして、あまりマウントをとるのも失礼かと思っていたが、ここの連中には身の程を知る謙虚さを教える、ということも必要だったのか?
満身創痍、それでもなんとか吸血鬼の夜を倒した夜獣が標的を吸血鬼に向ける。それが気に障ったのか、夜獣を瞬殺して見せた吸血鬼にこれ以上、雑魚の相手は、というj表情が見て取れる。それどころか
「このていd…」
吸血鬼の言葉を遮るように周囲が突然沸き立った。
「剣正?剣正!!」
沸き立つ住人の視線の先には、今しがた仕事を終えてきたばかりの剣正の姿があった。




