侵入者の脅威
正直言ってこの長屋には相当な実力者が揃っている。
これはこの長屋に住む住人たちの共通した認識だ。ただし。
それらは全て住人たちにとって最適な環境が与えられた場合による、というのも共通していた。
彼らは今、窮地に立たされている。原因は?そう、夜の深まりがに他ならない。この時間になると夜に特化した店子たちはほぼ出勤しているから…。
だからといって侵入者に好き勝手させることは出来ない。可能な限りの抵抗はした。のだが、自分の得意な領域で戦う敵に敵う者はいなかった。
「うるさいなぁ!子供もいるんだぞ!」
声が響いたのはそんな時だ、扉が開くと同時に放たれた声の主に視線が集まる。
え?
集中する視線を受けた主の顔が強張った。表情から推察する心境として一番に挙げられたのは恐らく、なんだこれ?という表情だろう。稀によくある酔っ払い同士の騒動ではない様子が彼を唖然とさせる。
「なんだこれ?」
思わず心境と同じ言葉が漏れてしまう彼の耳に
「侵入者だ!」
という声が聞こえた。
意識するより早く右手が反応する。素早く扉を閉めると家の中に戻り、慌てた様子で箪笥を引き出す。彼の力を使う為に。
「え?あれ?どこ行った?」
目当てのモノが見つからず、一瞬奥さんを見る。
「ここにあった夜、どこにやった!?」
ちょっと怒りのこもった口調で問いただすと
「あぁ、あれ?使ってないみたいだったから捨てたわよ」
と、返事が返ってくる。
いや…。捨てた…って。
何かを言いたげな強張る表情だだったが、ぐっッ!
と堪えて、自分の道具箱からちょっと良い夜を幾つか掴み、再び表へと向かう。
開いた扉の前に広がる光景は、さっきより少し悪くなっていたようだった。