侵入者、再び
新たな勇者の出現によって真・魔王城の存続が脅かされようとしてていたころ。
彼らの他にも魔王の命を狙っている存在があった。その者の名はブリック、言わずと知れた吸血鬼だ。
その実力は、過去に魔王城に忍び込み、名だたる魔王達に対して甚大なる(経済的)ダメージを与えたほどの存在、と言えば良いだろう。
新たな勇者たちが攻撃を終え、夕方彼らを無事に自宅まで送り届けたその夜。
深まる夜の一角が泡立つように周囲へと飛び散った。溢れた夜はゆっくりと姿を変えてゆく。
やがて人型へと変貌した夜が跪くなかにゆっくりと現れたブリックが魔王の居城へと向かうのだが
「ちょちょっちょ!」
見た目から怪しいブリックに住人たちが声をかける。
僻地の一軒家だった前回と違い、今回は城下町の集合住宅に怪しげな従者を引き連れた怪人の存在は、普通の一般人なら見て見ぬふりをしている所だが、ここは選抜未選択達の集う場所なのだ。何気に通過できるはずもないのだが…。
そうはいっても、世間に知られた者がいるわけではないこの場所でブリックが知っている者がいるはずもない。
無視して通り過ぎようとする彼に
「ちょっとまちなさい!って言ってんの!」
強めの言葉をかける住人に対して、なおも無視しようとするブリックを制止するために住人が動く。
そんな二人の間に強引に割り込んだのは、夜から生まれた付き人だった。
ブリック自信はほんの少しだけ二人に意識を向けたものの、特に反応する様子もなくそのまま進む。
ここで住人が声を荒げる。
「だから!待てって!!」
無視されることに慣れているからと言って、無視されて良いわけじゃない。
そんな思いのこもった言葉だった。