かつてない重圧
「忘れ物は?」
「ないよ」
「本当に大丈夫?」
「ないって!」
そこにケルベが駆け寄ってくる。口にはトレイタ愛用の闇のマントが咥えられていた。
「よーし、よくやった!」
周りと視線を合わそうとはせず少し大きめの声でケルベを褒めるトレイタが、婆やに何か言われる前にマントを受け取るが、マントはベタベタだった。
ともあれ、別れの時が来た。
魔王達はそれぞれ過去の常連を頼って身を寄せるのだ。再起を胸に…。
「もう、イイっすか?」
業者の言葉に促され再開を誓って固い握手を交わした魔王達は、名残惜しいが皆がそれぞれの道を歩み出す。
王都に着いたトレイタと婆や、そして他の魔王達はまず王城へ向かった。
この城の主こそ、魔王城の常連で彼らに最もなじみのある勇者が国王になった国なのだ。勇者たちは現役当時「ここはおれにまかせて――」
という先に行くシステムを採用しており、攻略の度に同じと対峙していた。過去にはそれに対して不満が出たこともあった。だが時がたつにつれ、それらはしっくりと馴染むようになっていく。
技の強度、剣の強さ、魔法のタイミング。勇者側は効率よく攻略するため、魔王側は回転率を上げるためのノウハウが生まれていく。
最速攻略
互いの利益が一致した先に生まれた効果が攻略指南だった。魔王城を攻略するための教えを乞う未勇者たちが、数多くこの国を訪れるようになると、その効果で国も徐々に発展していった。
国王に面会を求めたトレイタと婆やが通されたのは粗末な小屋だった。
流石に堂々と人前で国王が魔王とが会うのはまずいと思っての配慮なのだろう。しかし、今の彼らには頼るところがない。
不満を抱きつつ待っていると、やがて扉が開いた。