新たな伝説を求めて
婆や涙目。
昨夜の被害がこれほどまでとは思っていなかった魔王達も揃って涙目になっている。それでも不動産屋は一切の情けを見せなかった。今までで最強の敵を前に敗北した魔王達は言い値で契約をすることしかできなかった。
挫折した主人公、彼らの新たな伝説は、この時から始まる。
物語の始まり。
これから幾多の困難に立ち向かう彼らが、まず一番にしなければならないのは引っ越しの準備だ。
猶予は三週間。魔王城とはいえ、十分すぎる時間を設けて準備を進めていく。
現に婆やは一週間もかからず荷物をまとめ、そのほとんどを処分するか新居に移していた。ところが…。
城を退去する日の前夜、そこには少しイラつくトレイタの姿があった。
「忘れ物が無いようにね!」
わかってるって!
婆やの声に反論できず、心の中でぼやくトレイタは手当たり次第に荷物を詰めていく。
整理は?
そんなものは転居先でゆっくりやれば良い。今はとりあえず荷物を詰めないと!
大事な物だけわかるように置いといて、あとでひとまとめにして、それで、それから…。
「ぼっちゃーん!」
この忙しいのに婆やが呼んでる。でも、荷造りしないとだめだし…。
「ぼっちゃーん!ごはんですよー!」
早く食べてくれないと、片付かない、という婆やの言葉に渋々食事に向かうトレイタが食卓に着くと、他の魔王達から
「まだ終わってないの?」
「遅すぎでしょ」
などと皮肉を言われてしまう。
「三週間もあったのにねえ」
婆やにまで言われてしまった彼が内心で憤る。あったけど、なかったんだ!
余裕があるから、と思っていたら知らない間に今日になってた。。今日だけで準備するのは大変なんだ!
なのに誰も助けてくれない、なんて薄情な仲間なんだろう。
しかしそんなことは口に出しては言えない、そのかわり
「おわった、ちょうどおわったよ!」
嘘だけど、嘘じゃない。ほとんど終わってるのだから。
そして夕食後、まったりとした時間が流れ、何故か準備も終わったつもりになったトレイタはそのまま寝てしまうのだった。
そして翌日。
引っ越しの馬車の前で待つ婆やが何度目かのため息をついた頃、ようやくトレイタが現れた。




