末梢的な記憶
魔王城を離れ、王都に移り住んでからはや数か月。
何気なく思い出したのは指輪の事だ。
「指輪どこやったっけ?」
そう言えば引っ越しの時にトレイタが纏めて持っていく、と言っていたのを思い出した婆やが声をかけながら長屋の扉を開く。慣れた手つきで建付けの悪い引き戸を開いた彼女の目に映し出されたのは、同じ長屋に住むわんぱく兄妹に退治されそうになっている魔王の姿だった。
魔王が危ない。魔王の危機を救うべく婆やが動く。
「そろそろオヤツにしましょうか!」
と言いながら竈の傍に置いてあった甘味を手に取り振り返ると、退治を中断した勇者兄妹が姿勢正しく座っているのが見えた。
おやつを食べている兄妹を見ながら魔王に改めて指輪の事を確認すると、少し悩んだような表情をして引っ越しの荷物の中を探し始めた。戦闘や決闘などの日常から離れた今の暮らしには必要のない荷物だが、魔王城に廃棄して誰かに悪用されたら世界は闇に包まれる。
そんな荷物が荷ほどきされないまま積まれている所を探す魔王の姿に婆やは、ふとこんな事を思い出していた。
魔王城閉城。
その翌日に現れたならず者と勇者たちの記憶が今頃になって何故か蘇ってきた。
「本当に申し訳ありません」
知人に譲ってもらったクーポンは他の城のだったらしい。由緒正しい勇者は礼儀正しく、謝罪をしてこの場を去っていった。どうやらこれから真の魔王城に向かうらしい。
残されたのは。
「ぼくたちも勘違いだったんです」
というならず者たちだ。
ならず者が難癖を付けるときに勘違いが生まれるのか?といった疑問は生まれたのだが、そういった商売に疎いから知らないだけなのかもしれない。といった思いと、なによりも優先すべき来客の対応をするために、今回は彼らを解放する。
一方その頃…。