表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

紅く染まれ

作者: 鏡 糸

2作目です。

自力で考えるにはアイデア力がないので「三題噺スイッチ」というものを使わせて頂き、それに沿って物語を書いています。


本日のお題は「学校」「紅葉」「一日」です。

「一日」の要素が薄くなってしまった気がしますが...。

面白いと思ってくださったらレビューやコメントを頂けると励みになります。

 僕の高校には一際大きいモミジの木がある。

校庭の隅に太くどっしりとした幹を構えるそれは、樹齢も100を越えていて秋には立派な紅葉を見せてくれる。今年も例外なく紅く染まったモミジの木の周りには休み時間を過ごす生徒たちの集いの場となっている。僕はそうしてたむろしている生徒たちを廊下の窓から見るのが、まるで青春のひと時を覗き見しているようで好きだった。


 いつものように休み時間にモミジの木を見ていると、同じクラスの女子に話しかけられた。

「君、よくあのモミジを見てるよね。なにかあるの?」

話しかけてきたのは園芸委員会の今岡。髪を後ろでひとくくりにし、紅葉のように赤い眼鏡をかけている。

「なにって...。別に、こうやって見てるのが好きなだけだよ。」

「ふーん、変なの。そんなに木を見るのが好きなら園芸委員会に入ればいいのに。」

木を見るのが好きなわけではない、と反論しようかとも思ったが生徒たちを見ていると言っても変に思われるだけだと考え僕は黙り込んだ。

「あのモミジね、園芸委員会が毎年剪定してるんだ。なんてったって学校のシンボルだからね、先生たちも見栄えを気にしてるみたい。そのおかげか今年の紅葉はいつもより綺麗に紅く染まっているように見えるね。」

黙っていた僕に今岡は園芸委員会の活動を報告してくる。勧誘しているつもりなんだろうか。「悪いけど、委員会に入るつもりはないから。」

それだけ言うと僕は自分の席に戻り机に突っ伏した。自分だけの時間を邪魔されたようで、イライラしていた。


 放課後、僕はわざと教室に残った。無為に時間を過ごした後、部活動生が帰ったタイミングを見計らってあの木の下まで歩いて行った。幹を中心にして半径5m以上は落葉で満ちており、殺風景な砂のグラウンドを美しく飾っていた。

 僕は木の裏に周り太い木の根を張っている地面を見た。地面はこんもりと盛り上がっている。

「おかしい、この前見た時よりも盛り上がっている気がする...。」

僕は異変に気づいた。つい数日前に来た時も同じように土が盛っていたが、今日はその時よりも大きくなっている気がする。嫌な予感がした僕は近くにあった体育倉庫からスコップを持ち出しその盛土に切先をつけ掘り出そうとした。

「何してるの、君。」

休み時間にも聞いた声が響いた。

顔を上げるとそこには顔を引き攣らせた今岡が居た。明らかにこの土の下に何かがあるのを知っているかのようだった。

「い、いや。ここの土が変でさ、整地しようかと思ってたんだ。ほら、見てみてよここ、」

「もういい。」

今岡の冷たい声が僕の声を遮る。


「私、見ちゃったんだ。その土の下に何があるか。」

やめろ。

「君だったんだね。毎日木を見てるからおかしいと思ってた。」

やめてくれ。

「私園芸委員会だから、毎日見てるから土が盛ってるのにすぐ気づいた。だから掘ったの。」

やめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

「ねえ、なんであんなことを?私、誰にも言わないから、まだやり直せるから。教えて?」

やめろっ!!!!!!!!










 ザクッザクッザクッ───。

夜の校庭にスコップで土を掘る音が響く。

さわさわさわ、と落葉が夜風に吹かれ隠れていた紅い眼鏡が現れる。

盛り土は先程よりも目立たない形で修復されその上にモミジの葉をかけ更に隠した。



 



今年の紅葉はいつもより綺麗で、紅いんだったよな。

今岡の言った言葉を頭の中で反芻させながら僕は眼鏡を拾い上げ帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ