【後日談プリシアのその後追加】全て今更ですわ 【連載版始めました】
全て今更ですわ ~アナザーストーリー~の連載を始めました。
こちらの短編がベースとなっていますが、色々変更しています。別のお話として、よろしければお読みいただけると嬉しいです。
短編のざまぁを書いてみたくなって、初めて書いてみました。
設定などふんわり、ちゃっかりしてます。ご容赦を。
書いてたらもっと二人の事書きたいなぁと思ったので、もしご要望があれば。。。
何卒優しい目で読んでいただけたら嬉しいです。
後日談追加いたしました!よければ読んでください!
プリシアのその後を追加しました!よろしければ読んでください!
誤字報告沢山ありがとうございます。出先なので帰ってから確認致します。ありがとうございますm(_ _)m
誤字報告確認させていただきました。誤字だけ修正いたしました。ありがとうございました。
文章の修正は私の作品ではなくなってしまいますので、悪しからずご了承ください。
致命的な間違いを直しました。ご指摘ありがとうございました。
連載版始めました。そちらもよろしくお願いします。
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「アメリア マグリット貴様との婚約は破棄させてもらう! 理由など言わなくても分かるだろう!」
やはりこうなるのね。
「ええ、婚約破棄承知いたしました」
ラインハルト殿下の腕には義妹がべったりと寄り添っている。私のドレスを着て、私のアクセサリーを身に着けて。
卒業パーティーで婚約破棄とは、巷で流行りの小説のようね。
急ぎ馬車に乗り邸へ帰り父上に婚約破棄の旨を話すと、
「お前のような女など子供と思った事も無い、とっとと出ていけ! 能無しに用は無い。明日には籍も抜く分かったな!」
昔は優しかったお父様が別人の様になってしまったのは、母が亡くなって後妻を迎えてからの事。
私と1歳しか違わない父親似の異母妹を見て、父は浮気をしていたのだと知った。
異母妹は私の物を全て欲しがった。ドレス、宝石、騎士、執事、侍女、友人、婚約者、そして能力。
私は母と同じ豊穣と結界、治癒能力を持っていた。
それは母をも上回る強大な能力で、王家より直ぐにラインハルト殿下との婚約が結ばれた。
私は学業、王太子妃教育、国家から依頼される仕事により私的な時間など全く取れなかった。
そんなある日、王太子妃教育を終えた私をラインハルト殿下が待っていらして、隣には異母妹がいたのだけれど。
「アメリアが疲れてるんじゃないかって君の妹が心配してね、これは王家に伝わる秘宝のネックレスなんだが受け取ってほしい」
「ラインハルト殿下、お気持ちは大変うれしく思います。ですが王家に伝わる秘宝など、まだ婚約者の身である私には受け取る事は出来ません」
何かそのネックレス気味が悪いわ。でもそんな事言えないし…。
「未来の王太子妃だ。何を遠慮する事がある」
「私の疲れとその王家の秘宝のネックレスに何の関係がありますの?」
「疲れを軽減してくれるそうだ」
「では、むしろ陛下や王妃様に」
「陛下も王妃も君へと望んでいたよ」
「王家の秘宝ですよ、宰相に確認を」
「君は疑り深いな、まったく。私からのプレゼントが受け取れないのか」
「王家の秘宝でなければ受け取っております」
「王家の秘宝等と気負わずともよい。そうだプリシア、君が着けてあげればアメリアもそう気負う事もないだろう」
「さあ、お姉さま」
甘い声で手をつかまれるとゾワっとして動けなくなる。そしてプリシアはそのネックレスを私に着けたのだ。
「カハッ」
どさっと私は膝をついて蹲ってしまった。
「わぁー-すごー-い! これがお姉さまが持ってた力なのねー全部貰ってあげるからもう何もしなくていいわ」
「一体何を…」
「これはね、能力を貰い受ける事が出来るネックレスなの。着けた人間にしか外せないから、お姉さまは私に能力を貢ぎ続けてね」
それからは力を使おうとしても何も出来ず、ただ殿下の執務処理だけを行うようになっていった。
陛下と王妃に謁見した際に事と仔細をお話ししたけれど、そなたの異母妹が力を引き継いだのなら何も問題はあるまい。
むしろ婚約者をそのままにしておく事の方が問題だと言われてしまった。
ここで、私はこの国に見切りをつけた。
幸い、王宮で働いた給金は私個人へ渡されているし、お母さまの大切な形見も空間収納にしまってある。
最初からしまっていれば良かったのだけれど、こんな事になるなんて思わないじゃない。
後はその日が来るまで粛々と学業と仕事をこなし必要な物をこっそり蓄えていった。
王家の秘宝のネックレスについても調べ、浄化の泉に入れば外れるかもしれないと希望が見えてきた。
そしてやっと私はこの家から、この国から出る事が出来る。
誰も助けてくれなかったこの国に思い残す事は何もない。
街で護衛を雇い隣国へ向かった。そこで護衛とは別れてまた新たな護衛を雇うため商会へ向かった。
「君、なんでそんな物着けてるのさ」
「え?」
「ネックレス」
「着けたくて着けたわけではないのです」
「浄化の泉を目指してるんだろ?」
「……」
「警戒しなさんなよ、浄化の泉迄安全に連れてってやるよ」
「何故です?」
「気に入ったから」
「は!? お断りします! もっと真面目な方に頼みますわ」
「実力は折り紙付き! 見てSSSランクなの! そしてイケメンで優しいよ! もちろん変な事なんてしないよ! 口説くけど!」
「こんな方ですけど、商会が保証しますよ… 謎に凄腕なんです」
まあ、最悪な事にはならないわよね。
「では、お願いします…」
「レギオンだ。君は?」
「アメリアです」
「アメリアと長旅を楽しみたいところだけど、そのネックレス早く外したほうがいいから転移魔法で行くよ」
「え? あの?」
「危ないから抱きしめるね」
「危ないって? え? きゃー!?」
「目を開けて大丈夫だよ。ここはジャドリール国、そして目の前にあるのが浄化の泉」
「あ、あの入国許可は?」
「魔法で飛ばしたから大丈夫。心配しないで。早く泉に入っておいでよ」
「服のままでいいのかしら?」
「大丈夫じゃないかな」
「そう、ありがとう。行ってきます」
靴は脱いで簡素なワンピースで浄化の泉に入っていく。凍えるほどに冷たい。外気温と差がありすぎる。
首まで浸かろうと腰当たりの水位のところでしゃがみこんだ。
首がちぎれるほど冷たい。このまま身体が凍ってしまうんじゃないのかしら。
でもそれでもいいのかも。私今まで頑張ってきたもの。ここで終わるならそれが天寿だったんだわ。
パキーンという音がして身体が温もりに包まれていった。気持ちよくて、しゃがんでたのにそのまま大の字になって浮かんでみた。
このままずーっと眠っていたい。気持ちいい。全てが満たされていく。
「そろそろ上がろうか、君は泉に魅入られすぎ」
レギオンは私を抱っこして壊れたネックレスを持って泉から上がって魔法で私を乾かしてくれた。
「ねえ、僕は一生君を大事にすると誓う。どうか君の側にいさせてほしい」
「私はもう…あなたの事が好きみたい」
私の生まれた国はネックレスが壊れた時と同時に全ての作物が枯れ果て結界は消え魔獣が押し寄せ諸外国に救援を求めているらしい。
しかし、国内外にラインハルト殿下と異母妹のプリシアのやった事、陛下と王妃の対応、父親や私を助けなかった者たちの対応が全て映像石や新聞で白日の下に晒されたのだ。自国民の怒りは凄まじく暴動が起こっている。
そして王家は血眼になってアメリア マグリットを探しているのではないかと書かれていた。
それ以上の事は興味が無いので見るのを止めた。
「一体こんな事をしでかす人は誰なのかしらね」
「僕のプリンセスをいじめた奴等には制裁が必要だろ?」
◇◇◇
アメリアの能力を手に入れてやっと全てを手に入れたわ!
ラインハルトもかっこ良くて王太子だし、これからは私がそうね聖女いえ女神なのよ。
皆に全能の女神と呼ばせようかしら。
「ラインハルト殿下。プリシア様にアメリア様同様の王太子妃教育と執務及び豊穣祈願、結界強化、医療回復をさせてください。そして執務もです」
「プリシアは女神だ。いるだけで有難い事だと思わないのか」
「殿下の執務が滞っております。結界も綻びの報告があがっておりますし、農作物が例年の今頃より成長も遅く病気にも罹りやすく収穫量が減っているとの報告もあります」
「何故私の執務が溜まっている? 通常通りこなしているではないか」
「半分ほどはアメリア様がやっておられました。殿下がアメリア様にやらせていたのをお忘れですか?」
「……全てこちらに持ってこい」
「他の件、よろしくお願い申し上げます」
アメリアに頼ってほしくて執務をさせれば泣いた顔でも見れるかと思って。何より一緒に仕事が出来ると思って。
「ねえラインハルト~お茶にしましょ~」
プリシアが執務室に入ってきて腕にしがみついてきた。
「プリシア! ああ君の為ならいつだって」
私は今何を考えていたんだ? それは砂を砂浜に落としたように消えていってしまった。
「プリシアそろそろ豊穣祈願や結界強化、医療回復をやってくれるかい?」
「ひどーい、ラインハルトは女神の私に働けっていうの? 私は女神なんだからいるだけで十分でしょ?」
「まあそうなんだが、結界が綻んでる場所や豊穣の加護が受けられてない地域があるようなんだ。患者もいる事だし」
「その地域は女神への供物が足りないのよ。そうそうわたしぃ新しいドレスと宝石が欲しいわぁ。今あるのはほとんどお姉さまの物だしぃ」
「そうだね、買うといいよ」
満足したらしくプリシアは出て行った。入れ違いに残りの書類をお持ちしましたと宰相が入ってきた。
「グラウス…その私には補佐官がいたと思ったのだが」
「それもお忘れですか? アメリア様という婚約者がいながらプリシア様にかまけているのを諫められたのにご立腹して辞めさせたではありませんか」
「プリシアの言う事が全て正しいと、プリシアが愛おしいと、しかし何故か今日は違和感が。記憶ももやがかかったかのようだ」
「……今日はアメリア様から頂いたものを何か身に着けられていらっしゃいますか?」
「アメリアからの? ああこのハンカチか。全て捨てたと思っていたが。……。いや何故捨てる必要があったんだ?」
「加護が施されているのでしょう、そのハンカチには。殿下をお守りするように。1枚だけでも残っていて幸いでした」
「グラウス、その…考えられる事を言ってくれ」
「殿下はプリシア様の魅了にかけられているのでしょう」
「グラウスは何故かかっていない?」
「魅了などにかかっていたら宰相の職はつとまりませんよ」
「何故何も言わなかった?」
「執務に差し障りなければ私は構いませんので。婚約破棄されるまでは執務だけはアメリア様がされていましたので」
「プリシアに会う事無く宝物殿に行く事は可能か?」
「手配しましょう」
状態異常無効の指輪をはめた殿下は泣き崩れしばしの間、宝物殿に籠っていた。
◇◇◇
私は今やるべき事を考えた。私への魅了が無効になったと知られるのはまだまずい。
出来ればプリシアがアメリアのネックレスを外してくれる事が最善だがアメリアは戻ってきてくれるだろうか。いやプリシアが外す訳が無いな。
何としてもプリシアに働いてもらわなければいけない。
働かない場合は? 結界を張れる者、土属性の魔法を使える者、回復魔法を使える者を早急に確保しなくては。
騎士の再配置も検討せねばなるまい。
最悪の場合は起こるだろうか? あのネックレスは着けた者以外外す事は出来ない。だが本当にそうなのだろうか。
時間はあるのだろか。アメリアならネックレスをきっと外してしまうだろう。
いっそ国民を逃がしたほうがいいのか?
僕が愛してるのはアメリア、君だけだったのに。
己の弱さが招いた事が、アメリアに構われたいとプリシアの手を取った事が、自分の幼い考えに反吐が出そうだ。
これ以上の被害を防ぐために魅了封じのネックレスを持ちグラウスの元へ急いだ。
グラウスや他大臣と話し合い最悪の事を想定して諸外国へ支援要請を出す事にした。
アメリアが国を出てから2日が経過していた。猶予は後どれ位あるのだろうか。
◇◇◇
敬愛なる兄貴へ
無事リルデル国の王宮に潜入してる。
神の手は冷遇されてる。
王太子は神の手の異母妹の魅了にかけられてる。
じゃ、またね レギオン
愛する兄貴へ
王太子と異母妹が呪具を神の手に着けた。
陛下皇后黙認。
この国終わると思う。
じゃーねー レギオン
大好きな兄貴へ
王太子が婚約破棄した!
頑張って口説くわ! 一目ぼれからのマジぼれ
連れて帰ったら結婚させて
家とかさ用意しといて
ドレスとか宝石とかプレゼントしたほうがいい? まだ早い?
レギオン
「はーーーーーーぁ もうお兄ちゃん心配!」
「レギオン様ですか?」
「報告くれるのはいいんだけど、無事だって分かるからね。好きな子出来ちゃって口説いて連れてくるって」
「殿下、まさかお相手の方は?」
「神の手だよ、もーーー無理やりとかしてないよね!? あの子優しいからそんな事しないだろうけど!」
愛しの兄貴へ
浄化の泉に行くから入国許可と立ち入り許可よろしく!
王太子の魅了は解けた。解けたところで全員許さないけど。
あとでねー レギオン
お兄ちゃん使いが荒いよ!!!
◇◇◇
「レギオン、あなた王族だったの!?」
「あーそうなんだよね、自分でも忘れちゃうんだけどさ。優秀な兄貴2人がいるから俺は諜報活動してるの」
「あなたも十分優秀だわ!」
「肩書は第三王子になるけど冒険者の方が向いてるし! だから安心して! 執務とか今までやってたような労働はしなくていいから」
「レギオンが諜報活動に出たり商会から依頼を受けたりしたら心配だわ…それに離れてるのは寂しいわ」
「ん? もう一回言って」
「心配」
「そこじゃなくって、離れてるのは寂しいって」
「あっえっと」
「真っ赤になって可愛いなーあーもう大好き」
「わ、私もです。商会で声を掛けられて変な人って思ったんですけど妙に気になって、そしたら転移魔法で抱きしめられて、その時ああこの人なんだって。この人の事を私は待ってたんだって何故か思ったんです」
レギオンは両手で顔を押さえてる。
「どうしたんです?」
「何でもない。ちょっと心臓に衝撃が走っただけ」
「ええ!? 大変!! 今回復を!!」
「そういうのじゃないから大丈夫… ほんと… さて、兄貴に会いに行かないとね」
「でも私こんな格好だわ」
「気にしなくていいよ、じゃあ転移魔法使うから抱きしめるね」
「きゃぅ」
「兄貴ーーー! 連れてきた! 結婚させてー!」
「ゴホッ レギオン、お兄ちゃんは部屋に入るときはノックをしなさいって教えましたよ!」
「だって早く兄貴に紹介したかったんだもん。俺の大好きなアメリア」
「ジャドリール国の第一王子にご挨拶申し上げます。アメリアにございます」
「スペンサー ジャドリールです。ようこそ我が国へ歓迎いたします。堅苦しい挨拶はここまでにして愚弟に変な事はされていませんか?」
「変な事ってなんだよ! 何もしてないよ!」
「いえ、とても良くしていただいてばかりで感謝しております」
「単刀直入にお伺いいたしますがアメリア様もそのレギオンの事を少なからず思っていると?」
「はい…あの少なくはないです。大分沢山…それに私を優しく守ってくれて一生大事にすると誓ってくださいました」
「グッ」
「レギオン? また心臓なのですか? 治療しましょうよ、ね?」
「アメリア様、レギオンのそれは放っておいても大丈夫、気にしなくていいですよ」
「兄貴、俺仕事変わりたい。何かない? 諜報とかでいなくなるとアメリアが寂しがるからさ。どうしてもって時は行くけど」
「わわわ私なんかの為にそんな事ごめんなさい! 何でもないんです! 大丈夫ですので!」
「レギオンはアメリア様の警護をお願いしますよ。アメリア様はゆっくり好きな事をして過ごされてください」
「えええ!? 働かせてください! 何もせずにいるわけにはまいりません!」
「アメリア様のような能力を持っている方を神の手と呼んでおります。神の手であり第三王子妃となる。存在だけでありがたい事です」
「治療が必要な方とか豊穣の祈祷ですとか結界を張ったり行政関係であれば問題なくこなせます」
「そうですね、では時々浄化の泉に祈りを捧げてください。万が一にも緊急事態の際はお手伝いをお願いいたします」
「は…い」
「レギオン、西側の棟に部屋を用意してます。執事、侍女、その他必要な物は全て手配済みですよ」
これ以上惚気を聞いていたくないスペンサーは2人を早々に追い出した。
◇◇◇
ラインハルトがくれたネックレス何度見ても素敵だわぁ。
今日お母様が来るって侍女が言ってたわね。きっと羨ましがるわ! 私が王宮で生活してるから自分もって事なんでしょ。
まあ、あの邸も悪くないけれど、ここと比べたら雲泥の差だものね。
「プリシア様、マグリット侯爵夫人がお見えになりました」
「プリシア、久しぶりね」
「お久しぶり、お母様。あなた達は下がっていいわよ」
侍女達が全員出て行ったのを確認してプリシアが口を開いた。
「お母様も王宮で生活したくなったのでしょ? まあ今までいい暮らしをさせてもらったからその位はいいわよ」
「プリシア、私はあなたに忠告しに来たのです。私達が受け継ぐ魅了の力を使いすぎるなと子供の頃から言い聞かせてきましたね」
「やだぁお母様だって魅了の力を使って侯爵夫人になったのでしょう?」
「だからです。ほどほどにしておかないとこの力は国によっては処刑の対象になりかねないと教えたでしょう」
「大袈裟よ! 実際誰も私の魅了になんて気付いていないもの」
「そうかしら。この力を使いすぎると他の魅了を使う人達にも影響が出るのよ。生活が難しくなっていくの。でももう遅かったみたいね」
「何が遅いって言うのよ。私は王太子妃になるのよ?」
「正式な婚約はまだでしょうに。あなたはアメリアにもやりすぎたわ。いくら言っても聞かなかった。どうしてそうなったのか…」
「アメリアアメリアって! お母様だって最初のころだけでアメリアに冷たくしてたじゃない!」
「いいえ、平等に接していましたがアメリアに接するとあなたがアメリアへ酷い事をするのでアメリアから距離を置いていたのよ。もう行くわね、元気に…過ごしなさい」
プリシアは母親が出て行った後、ティーカップを投げつけた。
何が忠告よ。王太子妃になるのよ。この力さえあれば全てが思いのままじゃない。処刑だなんてバカバカしい。
既に魅了の力は露見しているわね。あのネックレスは魅了封じでしょう。
この国にいるのはもう安全とは言えないわね。平穏に暮らせればと思っていたのだけれど。
急がなくては。とにかく出国しなければ。数人の魅了を使える友人には連絡を入れた。そこからインクが滲んでいくように情報は伝わるでしょう。
その日は何度ラインハルトの所に行ってもラインハルトには会えなかった。
何処にいるかも分からず執務室の前にいる騎士に聞いても知らぬ存ぜぬしか言ってもらえなかった。
私は女神だっていうのに何なの? 蔑ろにするなんて! まあいいわ。新しいドレスと宝石でも選んでようかしら。
その日は花束が届く事もなく夕食も1人だった。
侍女達に全身の手入れをさせて早々に就寝した。
翌朝も朝食は1人だった。一体ラインハルトは何処で何をやってるっていうの?
「正式な婚約はまだでしょうに」
お母様の言葉が頭をよぎった。まさか他に婚約者を? いやそんな訳ないわ。だって女神を手放す訳無いし魅了が切れる訳ないもの。
じゃあ少し働いてあげようかしら? それで満足するのでしょ、面倒ね。
「ねえ、神殿に行くから準備してちょうだい」
「殿下より、本日はどこにも同行出来ないので、安全の為にも部屋から出ないでほしいと承っております」
「はあ? ラインハルトは何処にいるのよ?」
「私では分かりかねます。ですがプリシア様のご安全を第一に考えていらっしゃいます」
「そう、そういう事なら。ねえあなた、お茶が飲みたいわ」
私は今流行りの恋愛小説を読んで時間を潰していた。
え? なんだか力が抜けていくような。一体なんなの? 溢れるような漲るような力が何も感じられなくなってしまった。
どういう事? まさかお姉さまが死んだとか? それだと力は私の物になるはず。ネックレスは外れないし。
ようやく体に力が馴染んだって事かしら…それにしてはちょっと。
俄かに騒がしくなってきた。
「一体何事なのよ」
立ち上がって目の中に飛び込んできた風景に違和感を感じて窓辺に向かった。
「何よこれ……」
草木が素敵な花々が咲き誇る庭園が全て枯れ果てていた。お姉さまの力が無くなったのね! 役立たず!
部屋から出ようとしたところを護衛騎士に止められた。
「ラインハルトの所にどうしても行きたいのお願い」
そう言って護衛騎士の腕を触ってみたが腕を振り払われそのまま取り押さえられてしまった。
「あなた何をしてるか分かってるの? 離しなさいよ!」
私はそのまま王宮の地下にある牢に入れられた。
その後、私とラインハルトのした事等が映像石で流れ新聞に書きたてられたと聞いた。
暴動が起きたのか私を殺せとの声も聞こえてくる。
王族に魅了を使った事、王太子を唆して婚約を破棄させた事、国の宝である豊穣、結界、治療の使い手を失った事、全てにおいて処刑が妥当だと判断されたが、王太子が自分がその隙を作ってしまった。自分にも責任があると言った。
そして処刑は簡単に終わってしまい反省する暇もないであろう。彼女には心を入れ替え復興に役立ってもらいたいと言って皆が納得した。
やっぱりラインハルトは私の事好きなんじゃないって嬉しく思った。その時は。
今私は監視付きで自分では外せない沢山の魅了封じと魔法封じの魔具を着けられ最果ての地で枯れた大地を耕している。
教会の側の小さな壊れかけの小屋が私の家だ。枯れた大地を耕し、教会で掃除をして国の損失分を差し引いたわずかな給金で生活をしている。
1人で暮らしているのは、人に頼らず自立するための措置なのだそうだ。
教会で掃除している時も側に監視者しかいない。何度も逃げ出そうとしたが無理だった。
時々お前のせいだと石やゴミを投げられる事がある。魅了を使いすぎてはいけない。力を過信しすぎてはいけない。
そんな事をお母様が言っていた気がする。ふんわりとしていた蜂蜜色の髪は今は短くボサボサになっている。
肌もすっかり焼けて、水仕事で手はガサガサで爪はボロボロだ。お風呂も無いので体を拭く事しか出来ない。
料理が出来ないので一番安いパンを買って1日1回だけ食べている。
そして週に1度牧師さんから何がいけなかったのかを問われるが、毎回あなたには一体何から教えればいいのか私の課題ですと言われてしまう。
今は水を汲みに行ったときに聞こえた浄化の泉に行けば自由になれると思ってボロボロになりながらも働いている。
牧師からも監視者からもようやくまともに働けるようにはなったが、反省の色は無しと報告が挙げられている。
ラインハルトは自身の処遇について、自分の弱さが国の危機を招いた事に対し猛省し、必ず国を復興させると誓った。
それだけでは甘すぎるとの声もあったが、実際、魅了が解けた後、本来王族が魅了にかかっていた事実自体隠すべき内容を包み隠さず開示し諸外国への支援要請が早かった事、結界を張れる者、土属性の魔法を使える者、回復魔法を使える者を早急に確保した事。騎士を再配置した事により暴動を速やかに鎮圧し魔獣の討伐も早く犠牲者を出すに至らなかった事が評価された。
陛下と王妃は静養という名の幽閉となった。
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