第六話
翌日、俺は聖剣を肩に担いで森を歩いていた。
マナを連れようと思ったが、ベロちゃんと仲良く寝ていたから起こさずに一人で来ている。
写真を撮れる機械か何かがあれば撮りたかったな。
ベロちゃんもマナもアホヅラで寝てて笑っちゃったし。
それを思い出しながら苦笑して歩いていると、以前父さんに連れられて来たことがある見晴らしのいい、川にたどり着く。
よし。
今日はここで素振りをしてから、魚を獲って帰るかな。
聖剣に鞘はなく抜身の状態だったので、母さんに危ないからと言われ、再び布に包み込みこんで持ち帰って一日放置していた。
聖剣君ごめんな、一日放置しちゃって。
だ、断じて忘れてたとかじゃないぞ!
心の中で謝りながら布を一日ぶりに解放してやる。
光を通さない漆黒の剣がでてきた。
う、うん。
うん⁉︎ あれ⁉︎
違う持ってきちゃった⁈ いや、でも大きさは同じだし……
ど、どういうこっちゃ?
聖剣? を見つめるが何も状況が変わらない。
俺はしょうがなく黒い剣をつまみ上げた。その時、昨日掴んだ時と同じようにノイズが走り、今度は視界が一瞬乗っ取られた。
そこには赤い髪をした男性と戦ってる誰かの光景が見えた。
うーん。
どことなく父さんに似てるような気もしたけど、どこか間抜け面だな……
はぁ、考えてもしょうがない!
俺はいつも通り能天気に思考を断ち切り、聖剣カッコ笑をブンブン振って素振りをする。
ほっほう、これはすごい!
軽く振ってるだけなのに、ピュンピュン衝撃波が飛び出るぜ!
衝撃波だけで近くの石や砂利が嵐のように飛んでいった。
いや、すごすぎでしょ。
意味がわからん。
呆れながらも俺は初めてもらった武器に、木の枝で遊ぶ子供のようにはしゃぎながら振り回す。すると、少しして脳内に「カチッ」という音が響いた。
ん?
『……せない』『……どうして』『……ガァァ‼︎』『……んでだ‼︎』『……あぁ』
うんうん、なるほどなるほど。
最初は小さい声だったが段々と大きくなる。
幼さが残る少年のような声から老婆、怪物のようなさまざまな怨嗟の声が聞こえてきた。
呪いの剣じゃねえか‼︎
剣を地面に叩きつけた。
と、父さん。
これ聖剣なんて代物じゃなくて呪い剣じゃん、恨み辛みがすごいもん。
俺じゃなかったら発狂するレベルだよ……
がっくしと項垂れて呪いの剣を見ていると、剣に纏わり付くように赤黒い血管が浮き出てきた。
キ、キッモ。
もしここに捨てたらここら辺汚染されそう。
ぐっ、触りたくないがしょうがない。
持って帰って父さんにクーリングオフしてやる!
砂まみれになって汚れた呪いの剣を屈んて取る。
するとさっきまでうるさかった怨嗟の声が小さくなっていた。
『……んなさい』『……てないでくれ』『……ガァ』『……めて』『……うぅ』
血管がピクピク震えながら、今度は怨嗟と謝罪のハーモニーを奏で始める。
うがぁ‼︎
呪いの剣を川にぶん投げ、肩を怒らせて家に帰る。
もう知らん‼︎
父さんに文句を言ってやる!
家に帰り父さんを探しにリビングを覗くがいなかった。
代わりに母さんが台所で夕食の支度をしている。
「……エインセル……おかえり……なさい」
母さんは俺に気づき振り返る。
「ただいま、母さん。父さんは?」
「……見回り……狩り」
いないのか。なら、しょうがないな。
「わかった。部屋に戻ってる」
父さんが帰ってきてから捨てた場所を伝えればいいか。
日当たりがいい場所を陣取って、ベロちゃんとマナがまだ呑気に寝ていた。
「フガフガ」「フガッ」「ウガァ……」「キ、キュゥ……」
ベロちゃんの三つの鼻とマナの鼻に指をはわせ、フガフガさせて満足した俺は自室に戻った。
はぁ……聖剣だと思ったのに。
とんだ時間の無駄だったな。
ベッドに勢いよく飛び込み、枕に顔を押し付ける。
足をバタバタしていると、部屋に相応しくない物があったことに気づく。
俺は顔を横にして机の上を見た。
机の上にたいそう、それはたいそう捨てたはずの立派な呪いの剣があった。
ガラガラッ。ピシャッ! 窓を乱暴に開け、全力で呪いの剣を空に投擲する。
ふぅ……一仕事したぜ。
良い天気だし、窓を開けたまま昼寝でもするか!
ベッドで寝ようと顔を向けた瞬間、俺は固まる。
呪いの剣が律儀に掛け布団をかけてベッドに陣取っていた。