第五話
家族全員で泉にピクニックなう。
あっ、もちろんベロちゃんとマナも連れてね。
え? そこじゃない、なうは死語だって?
うるせぇ!
芝生に腰を落としてベロちゃんとマナを眺める。
「ワンッ!」「ワフゥ」「ウォォーン!」
妖精たちは泉に入って泳ぎながら遊んでいた。
本当仲が良いね君たち。
泉はすごく澄んでいて見たこともない水草や小魚が泳いでいる。
綺麗な魔力がキラキラと輝き神秘的な泉になっていた。
目を細めて和んているとマナがバタフライでベロちゃんの周りを泳ぎながら煽る。
う、うん。
君、本当中身おっさんとかじゃないよね?
ベロちゃんの右頭君はついに堪えられなくなり、他二つの頭も引っ張られるようにマナを追いかけ回す。
母さんは俺の横で泉に足を入れてほんわかしながら眺めていた。
父さんはというと、ピクニックにくる時にずっと脇に抱えていた包みを地面に置いて開封していた。
俺の視線に気づくと手招きをする。
ほいほい。
なんぞや? パパン
近づくと包みの中から見たこともない一本の剣が出てきた。
鋼で作られていて飾りっ気は一切なく無骨な作りだった。俺は無骨ながらもどこか美しい剣に目を奪われる。
父さんはその剣を楽しそうで悲しそうな、様々な感情が入り混じった表情をしながら、剣を撫でる。
「俺が家から出た時にかっぱらってきた剣だ」
え、えぇ……
そんな表情をしながら、かっぱらってきたって……
「俺では担い手になることができなかった。でもな、こいつのおかげで多くの苦難を乗り越えた。最高の相棒だ」
は、はぁ。
さいですか。
「エインセル。俺と違い頭が良いお前ならすでにわかっていると思うが、これは初代<勇者>が使っていた<聖剣>だ。俺では使いこなすことができなかったが、もしかしたら勇者と同し<転生者>であるお前なら使いこなせるはずだ」
なんか色々すごい情報があって頭が混乱するんだが……え、転生者?
「知ってたの?」
「うん? 知ってたぞ?」
俺が仰天しながら聞くと父さんの方がむしろ不思議そうな顔で俺を見て困惑した。
ど、ど、どういうこっちゃ⁉︎
「お前の魔力に少しだが、<異世界>の魔力があるからな。あと母さんも知ってるぞ」
ほわっつ⁉︎
ママンも知っているの⁉︎
「うーん。何て言えばいいんだろうな。結構、話が長くなるが」
「知りたい」
即答した。
「<魔王>を倒した勇者の話は知ってるだろ?」
もろちん。
あっ、間違えた、もちろん。
「勇者は異世界から呼ばれたなんだったかな。うんぬんかんうん、ていうやつでな」
そこ大事なところじゃない? パパン。
「話を割愛するけど、その時に勇者は二振りの剣を使っていたんだ。で、今ここにあるのが魔王を討ち滅ぼした聖剣。もう一振りが<神聖国>の奥底に隠されているんだが、これがまた眉唾物でなんでも魔王の呪いで勇者の魂が囚われている<魔剣>らしい」
確かに勇者伝説の本を読んで二振りの剣を使っていたのを知ってたけど、これが聖剣?
「男なら、勇者の剣を持っていたらもう一本欲しくなるだろ?」
う、うーん。そうなの?
「盗もうと入り込んで実物を見たことがあってな。まぁ、結局盗めずに神聖国の<聖騎士>どもに追っかけまわされたんだけどな」
何してんの? まるで盗賊なんだが。
「魔剣からは見たこともない魔力が溢れていたのは今でも覚えてる。多分、勇者の魔力だと思うんだが、それをお前も放っていたからな」
なるほど! 意味わからん。
「ルーシィは生まれてすぐに気づいていたみたいだぞ。魔力が俺より長けている分、いち早く違和感に気づいたみたいだけどな。ルーシィ……というよりはエルフ全体が、基本的に森羅万象全ての存在が輪廻のごとく生まれ変わると信じているから、母さんは特に気にしてなかったらしいぞ」
「気持ち悪くなかった?」
「うん? どうしてだ? だって俺たちの子だろ?」
至極当たり前という感じで言われる。
いつのまにか母さんも背後に回っていて、後ろから俺の頭を撫でる。
「……エインセルは……エインセル」
両親がすでに知っていたことにホッとしたのか、はたまた隠し事が隠れていなかったことに緊張の糸が切れて腰が抜けた。
俺が尻餅をする寸前、後ろから母さんが俺を支えるようにギュッと抱きしめる。
「まぁ、そんなことよりこれをお前にやるよ。お前も、もう今年で十四だろ?」
そ、そんなことよりって……
父さん、軽すぎでしょ。
母さんは後ろから俺を父さんの方向へ押す。
「この剣をかっぱらって世界を旅したのが、十四だから。お前にやる」
うん?
なんで十四だからくれるの?
「お前も俺と同じだからな、わかるさ。世界を旅したくてうずうずしてるんだろ?」
しませんが。
「……安心……いつでも……待ってる」
やだやだ! まだ家に寄生してたい! 俺、まだ未成年だよ?
いやこの世界の成人が何歳かわからないけど!
心の中で駄々を捏ねるが母さんが後ろからグイグイ押してくる。
「ふっ。そんなに興奮しなくても聖剣は逃げないぞ」
興奮じゃなくて嫌がってるの!
俺が嫌がるのもつゆしらず、父さんと母さんは寂しげに俺を見ていた。
クッ、しょうがない……
受け取るが決して、旅になんて出ないからな!
渋々屈んで剣を掴む。
その瞬間、頭の中にノイズが走ったかのようにザーと響いた。
ん?
「どうした?」
「……何かが」
「うーん? もしかしたら聖剣が呼応したのか? 俺の時には反応しなかったのに――さすが俺たちの子だ」
父さんは悪ガキみたいに悔しそうな顔をしながらも、嬉しそうに俺の頭を撫でた。
「もしかして、勇者の血と転生者の魔力が関係してるのか?」
「勇者の血?」
「あれ? 言ってなかったか? 本当か俺も知らんが、俺の親父から聞いた限り俺にも初代勇者の血が流れているらしいぞ」
お、おう。
パパン、大事なことは前もって教えてくれませんか?
なんか今日だけでいくつも重要なことを言われて疲労感でいっぱいだよ
今まで心の奥底でどことなく負い目に感じていたことがなくなり、少し気が楽になった俺は泉で遊んでいるベロちゃんとマナにそっと近づき、水しぶきをかけてやった。
ひっくり返って怒ったベロちゃん、マナと泉の中で追いかけっこをして楽しんだ。