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第四話

「お、エインセルもついに妖精と契約したかぁ。感慨深い」


 パパンも当然のように妖精が見えるのかい!

 パパン、本当に人間?

 俺と母さんの魔力が見えているのは知っていたけどさ。

 実は人間の皮を被ったエルフとか……ないな、赤髪で赤色の瞳で耳も丸くて普通だし。


「……流石……エインセル」


 ママンもほんのちょっと胸を張って嬉しそうにしていた。

 魔力もまるで『えっへん』という魔力が漂っている。


 エルフの魔力操作すごすぎない?


 妖精は父さんと母さんにも認識されていることに気づき、くるくると部屋の中を楽しそうに踊る。


「ほう。しかも<精霊>に近い妖精だな――これは珍しい。まだ絶滅していなかったのか」

「精霊?」

「うーん、なんて言えばいいかな。妖精もかなり種類がいるんだよ。精霊は知っているだろ? シルフだったりウィンディーネとか、だ。あれに近いってことだ!」


 説明がめんどくさくなった父さんが適当に締めた。


 全然説明になってないぞ、パパン。


「……妖精……精霊の力……有している」


 母さんが言葉に出して補足してくれるが余計にわからなくなる。

 とりあえず目に力を入れて魔力を見る。


 えーと、妖精はいっぱい種類があり、こいつは精霊の力を持っている妖精ってことかな?


 妖精を見ると机の上に置いてあった爪楊枝を持って、レイピアみたいに刺して遊んでいた。


 ただの悪戯小僧にしか見えないけど……


 危ないから爪楊枝をデコピンで飛ばしてやる。

 突然のことにびっくりして怒った妖精が抗議を上げるように俺の指をポカポカ叩いてくる。


「そういえばルーシィも妖精――というより、<幻獣>と契約してるぞ。ケロベロスの」


 ケ、ケロベロス⁉︎


 慄いだ俺に妖精も上着に入ってきた。

 が、頭だけ上着に隠してお尻は丸出しの状態でプルプル震えていた。


 顔隠して尻隠さずかな?


「……おいで……ベロちゃん」


 母さんが名前を呼ぶと、部屋中に漂っていた魔力が急速に母さんに吸い込まれていき、母さんの横に何かが現れる。


 や、やばい!

 逃げろ!


 尻尾を巻いて逃げようとしたその瞬間、それは召喚された。



 それは黒というには暗すぎた。

 全てを吸い尽くす程の漆黒の毛並みに、伝承通りの真っ赤な六つの瞳は爛々と輝く。

 本に描かれているケロベロスと同じで三つの頭があり、それぞれの頭は歯を剥き出しにして……



「ワンッ!」「ワフッ」「ウォン?」


 愛くるしい子犬姿のケロベロスが鳴いた。


 可愛い。


 上着からお尻を出しているアホ妖精を無視してケロベロスの頭を撫で回す。

 三つの頭はそれぞれワフワフと言いながらペロペロと俺の手のひらを舐める。


 左頭は元気いっぱいのワンチャンで、真ん中は凛としてキリッとしていた。

 最後に右頭はどこか締まりのない顔で左を見だり右を見たりして忙しない。


 ういやつめ。

 もっとわしゃわしゃしてやろう!


 俺がケロベロスと戯れているとそろりそろり――と妖精が上着から出てきた。

 そして俺が別の妖精である幻獣を可愛がっているのを見て、怒って俺の胸をポンポコ叩く。


 今の俺はケロベロスを愛でたい気分なんだ!


 妖精のお腹をツンっと押してやる。

 すると、また糸が切れた人形みたいに力がなくなって俺の手のひらに落ちた。


 君のお腹は電源スイッチなのかな?


 俺の手のひらに落ちた妖精を右頭君のケロベロスが凄い勢いで舐め回す。


 うっへぇ。

 よ、涎の量が尋常じゃないんですが。

 美味しい出汁でも出てるの?


 ケロベロスの中頭は変わらずキリッとしていて、左頭は物欲しそうに妖精を見つめていた。

 右頭君が俺の指まで舐めまわしてきたので、頭をグッと押して少しだけ遠ざける。


 妖精は相変わらず電池が切れたおもちゃみたいにぐったりしていた。

 俺は我慢しながらベチャベチャになっている妖精のお腹を突っつく。

 妖精は壊れたブリキの人形みたいに体を起こし、状況を理解すると体を震わせる。


 怒ったのかな?


 見ていると突然ポンっと周囲に魔力とよくわからない粉を撒き散らかして輝いた。


 ウガァ!


 光に目をやられて手で目を覆う。

 指の隙間から覗くと、妖精の頭が静電気でアフロみたいになっていて、涎も消えていた。


 アフロ妖精は怒り心頭といった顔でパタパタと浮かび上がる。

 てっきり抗議するかと思いきや、俺の背中に隠れてケロベロスを睨むだけだった。


 ビビってるなら威嚇するなよ……


 俺が呆れていると母さんがケロベロスの頭を一つ一つ優しく撫でる。


「……ベロちゃん……体……大きい」


 ほうほう。なるほどな!

 解説してやろう! なんと普段はとてつもなく大きいが今は魔法の力で小さくなっているらしい!

 いや、母さん……よくそんな巨大な幻獣を手懐けられたな。


「……ベロちゃん……傷ついてたから」


 ふむふむ。

 森でケロベロスもといベロちゃんが傷ついて倒れていたところを母さんが見つけ治療した、と。

 それで懐かれそのまま契約したのか。


 さっすが、ママン‼︎

 その優しさがマブいぜ‼︎


「契約者の傍にずっといるのもいれば、呼ばれた時だけ召喚する妖精がいる」

「……ベロちゃん……地下」

「あぁ、ベロちゃんは普段、ここよりも深い地下世界にいる。まぁお前も大きくなったことだし、ベロちゃんはこのまま召喚させても問題ないだろう」


 賛成です。

 可愛いので。


「あとエインセル、お前が契約した妖精もここを気に入っているようだし、ここに住まわせたらどうだ?」


 そうだなぁ、妖精さんに聞いてみるか。


 背後に隠れていた妖精を探すがいなかった。


 あれ?

 アフロ妖精どこにいった?


 いつのまにか机の上に移動していて、新しい爪楊枝とどこから拾ってきたどんぐりの帽子を被っていた。

 爪楊枝をベロちゃんに向けて一丁前にツンツンして威嚇している。

 俺は嫌がらせで爪楊枝とどんぐり帽子をデコピンで飛ばした。


「契約したんだから名前を決めたらどうだ? さらに絆が強まるぞ」

「……フェアリー……で……フェイちゃん」


 名前か。

 何にしようかな。


 悩みながら俺の指と格闘している妖精を見る。


 こいつ、本当に妖精か?

 中に汚いおっさんとかいない?

 すごい綺麗な足捌きでジャブとストレートを決めてくるんだけど


 二本指から五指でワキワキすると、アフロ妖精が荒ぶる鷹のポーズで威嚇してきた。


 もしや、貴様――俺と同じ転生者か?


「大昔に活躍した勇者や傭兵の影響じゃないか? 基本的に妖精は寿命に概念がないからな」


 疑問に思っていたら父さんが教えてくれた。


 へぇー。

 ならこのアフロ妖精も相当な年寄りなのかな?


 失礼なことを考えていることに気づいたアフロ妖精がシャーと威嚇しながら小さく輝く。

 光が収まるとアフロから綺麗なストレートに戻っていた。


 本当、摩訶不思議な生物だな。

 うーん、摩訶不思議な生物で不思議な力だし、そこから取ってマナとか?


「マナ」


 なんとなく呟いた名前に妖精が驚愕したような顔になり、すぐに「キャッキャ」と喜びながら空中でダンスを披露する。


「ほう、マナか。良い名前だ、よろしくなマナ‼︎」

「……フェイ……ちゃん」


 見苦しいぞ、母さん。

 そんな安直な名前は付けん!

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