第三話
数時間後。
二人は大量の獣人と亜人たちが汗水を流しながら荷卸しをしている作業場にいた。
「想像以上に獣人がいるな」
「だな。これなら格段手こずることもなく職にありつけそうだ」
「早く金を稼いでエインセルを探さない、と」
「あ、あぁ……」
相変わらずエインセルのことになるとねっとりするレーグに引きつつ、ヴァンは近くで休憩している年配の獣人に声をかける。
「よぉ、兄ちゃん。ちょっといいか?」
声の掛け方がどう見てもカツアゲをするやつにしか見えない。それは置いといて。声をかけられた年配の獣人は二人の身なりを見てすぐに眉を顰めた。
「お前さんたちは……外から来たのか?」
「おうとも」
「……消えな。あんたらができる仕事はここにない」
「おいおい。いきなりそんな冷たくするこたぁないだろ。まぁ、いい」
ヴァンは苦笑しながら首をポキポキさせ周囲を見渡し一人の人間を見つけた。
「あいつがここの現場監督か?」
「おい!」
年配の獣人を無視してレーグを連れ、ヴァンは人間の元へ歩いていく。その人間は加齢からところどころ髪が白くなり壮年に近い男性だった。
男性はしきりに持っていた紙を見ていたが二人に気づき、顔を上げる。
「ここは部外者以外、立ち入り禁止だぞ?」
「肉体労働にうってつけの俺たちを見てそんなつれないこと言うなよ」
ヴァンの言う通り、作業をしている他の獣人たちよりも身体は大きいが、それ以上に漂わせている気配がカタギの臭いがしない。
「……ギャングならお断りだぞ」
「違うってぇの。なんなら知り合いの衛兵でも呼んでこようか?」
別に自分の知人でもないのに勝手に使うヴァン。レーグは呆れ顔で見ていた。
「うぅん。そこまで言われて、本当に連れてきたら困るな……」
男性はぽつりと小さく呟き、腕を組む。
「作業も滞ってるしな……しょうがない。とりあえず今日だけ臨時ということでいいか? もし素行や作業に問題がなければ明日からも雇うってことで」
「さっすが話がわかるぜ」
そう言って現場監督の男性は二人に仕事を振り分けた。周囲から獣人や亜人が血走った目で見ていたことにもちろん二人は気づいていたが、野良犬レベルの威嚇になんとも思わない。
日が暮れ始め、レーグとヴァンの二人は木のフェンスによっかかり水を飲んでいた。
「なるほどな。ヴィリアの言う通り、人間なんかよりもよっぽど獣人と亜人から嫌がらせが酷いな」
獣人や亜人たちは現場監督や人間が見ていないところで、二人が荷物を運ぶ際に木材の破片だったり、ゴミを投げ捨てていったり、通り際に嫌味をネチネチ言っていた。
「直接的なことをしないだけマシだろ」
「だな」
レーグの言う通り実力行使をするほどの勇気がないのか、小さな嫌がらせ程度だった。
外の世界では嫌になる程人間や魔獣と血みどろの命の争いしてきた二人にとって、視界で蠅がしつこくぶんぶん飛ぶようなもんだった。
安宿で休み、エインセルを探しながら一週間。
雇い主である現場監督の男性に二人が呼ばれる。
特に問題も起こさず他の獣人、亜人よりたくさん働き、もしや賃金が上がるのかと思ってヴァンは鼻をぷっくりしてご機嫌な足取りで向かった。
そんなヴァンとは違い男性の顔は眉を八の字にしていた。
「あぁー、うん。最初に謝罪をさせて欲しいヴァン、レーグ」
「おいおい。どうしたってんだ? 良い話をするのに謝罪なんて!」
鈍感すぎるヴァン。逆にレーグは男性の顔からおおよそのことに勘づき、腕を組んでため息を吐いた。
「俺は別に亜人だからって……」
「うん? そんなことわかってるっての!」
ヴァンは男性の背をバンバン叩き満面の笑み。眉間を揉みながらレーグが口を開いた。
「ヴァン。少し話を聞け」
「ん? おう」
頭を傾けたヴァンは男性から少し距離を取った。
「レーグは察しがいいからわかっていると思うが。他の亜人からの苦情……でな。長年勤めているだけあって臨時のお前たちには悪いが……」
「なんだなんだ? 俺は頭が悪いからよ。もっとわかりやすく言ってくんねぇか?」
「……悪いがもう来ないでくれ」
「は?」
笑顔から一転、無表情。ヴァンは口をニチャリと開き、歯を剥き出しにして。
「舐めてんのか? ……オルァァ!!」
ブチギレた声を上げた。殺気は凄まじく周囲に迸る。
今まで周囲でニヤニヤ見ていた獣人、亜人はそれに驚き尻もちをついて逃げていった。
「落ち着け」
レーグがポンと肩を叩くと一瞬で殺気が消える。
「無礼を謝らせて欲しい。すまない」
「あ、あぁ……」
目の前で直にヴァンの殺気を喰らい男性は固まっていた。
「い、いきなりなのもあるが、今日は働いていないがその分のお金だ」
「ありがとう。感謝する」
レーグは男性から金を受け取りヴァンと作業現場から去った。




