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第一話


 なぜか目が潤んできたヴァンは乱暴に顔を腕で拭う。その時、小さな影がピョコンピョコン動いていることに気づいた。


「ん?」


 見てみるとそいつは先ほど城門で騒いでいた若い獣人だった。若い獣人も二人より身長は小さく、同じように黒いボロを纏っていて顔は見えない。


「なんだ、お前」

「さ、先ほどはありがとうございました!!」


 てっきり因縁をふっかけてきたのかと思えば、ご丁寧にもう一度感謝をしにきたようだった。


「気にするな。お前があそこで騒げば俺たちまで余計に時間が食うのが見えただけだ」


 そんなことを言って頬をポリポリかくレーグ。どこか嬉しそうな顔。


 若い獣人がゆっくり顔を上げると頭まで被っていたボロがヒラリ。もふもふした愛くるしい顔がでてきた。

 ヴァンは臭いから少年だと思っていたが、若い女性の顔立ち。自分の鼻が衰えたのか? と思い、肩眉を上げる。


「あ、あの自分……お金はありませんが奢らせていただければ!」


 金ないのにどうやって奢るんだよって二人は思ったが、若い獣人のキラキラした瞳に言葉を飲み込んだ。

 



 若い獣人、羊人族で名前をヴィリア。


 ボロが落ちた時はアワアワしながらすぐにまたボロを被り直したが、今は完全に顔を晒している。

 もふもふした毛並みにクリクリした瞳が可愛い。ヴァンが臭いが妙に男っぽいと聞くと魔法で変えているとのことだった。


 そんなヴィリアは自分を女性だと言い張るが、羊人族にしてはぺった……どこがぺったんなのかは置いといて、三下感満載の喋り方をする子だ。


 そんな彼女に連れられ、二人は酒場にやってきていた。


 レーグはヴィリアに酒場へ案内しますと言われ、実際に入店するまではずっと渋い顔をしていた。

 なぜならレーグが一人旅をしていた時、小さな街の酒場へ行ったことがあったがその時は柄の悪いチンピラたちがたむろしている上に不味い飯しか出さないイメージしかなかったからだ。


 が、帝都の酒場に入ってレーグは自分が今まで来ていた酒場と違いすぎる場所にカルチャーショックを受けていた。



 隅々まで掃除され、とてもじゃないが傭兵や亜人ごときが来ていいのか? と疑わしい高級店にしか見えない。

 周囲に目を向けるとレーグやヴァンのように流れの傭兵たちがいてホッとする。彼らは静かに談笑をしている。


 席に着き注文を終えると、ヴィリアは周りをキョロキョロしながら声を落とし、小ささ声で言う。


「自分凍える者たち(フローズン)に入ろうと思ってまして。その自分と同じ亜……獣人のお二人は?」

「「フローズン?」」


 レーグとヴァンは声を揃えて素っ頓狂な声を上げる。


「はい。なんでも他国のスラム街や細々隠れて生きてきた亜人、奴隷の身分から逃げてきた獣人たちが身を守るために集まってできたギャングです」

「ギャング? んだそれ」


 ヴィリアがどう説明しようか迷うと、横にいたレーグが簡潔に答える。


「要はチンピラの集団だ」


 それだけでヴァンもわかったのか、力強く頷く。


 そこへちょうど注文した飲み物を持って来る店員。


「エール二つと果実水をお持ちしましたー!」

「エ、エール?」


 真昼間にエールを二つ頼む獣人の男二人。ヴィリアがドン引きした顔を向けても二人はどこ吹く風。


「乾杯しようぜ」

「そうだな」


 ヴィリアは目をキョロキョロしながら果実ジュースのジョッキを持ち上げ乾杯をした。


「くぅぅぅ! 帝都のエールは最高だな!」

「あぁ、そうだな」

「姉ちゃん! 追加でエール二つ!」


 奢りだとわかるとエールを一口で飲み干し、追加で注文するヴァン。店員の女性がやってくると頬をピクピクさせてヴィリアを見ていた。


 ヴィリアはぶっさいくな笑みを浮かべ、頭をペコペコする。


 おそらくこの店員がヴィリアの知り合いなんだろう。

 獣人の耳と尻尾が見当たらないが気配と歩き方、それと臭いでレーグとヴァンは気づいていた。

 わざわざ無い理由を聞くほど愚かではない二人は気づかぬフリをする。



 二杯目のエールを空けてから本題に入る。


「街で働ける場所はあるか? 力仕事なら大歓迎だ」


 ヴァンがそんなことをヴィリアへ聞くが眉間を寄せて難しいと言う。


 外からやってきた亜人は身元も保証されていない上、チンピラ同然のためかなり嫌悪されている。特に帝国で生まれた獣人や長年住んでいる亜人が嫌っていた。もし外の亜人が迷惑をかければ自分達の地位が脅かされるからだ。

 だからだろう職に就くことができずにほとんどの亜人はすぐにスラム街に不法滞在することになる。しかし、弱いやつらは数日もせず文字通り骨や皮も残さずバラバラにされて売られてしまう。

 ゆえに人間、獣人、亜人問わず徒党を組むか、ギャングに入らざるを得ない。


「ふぅ」


 ヴァンが椅子の背もたれに倒れ込みため息をした。


「外とあんまり変わんねぇな」

「はい、そう……ですね。ただツテがあったり、知り合いがいればなんとか入れるんですが……」

「ん? あそこの店員と知り合いなんだろ? なんでギャングに入ろうとしてんだ?」

「えーと……えへへ」


 わざとらしくすっとぼけて口を濁すヴィリア。何かしら事情があるんだろう、察したレーグが少し大きな声で話題を戻す。


「さっきの凍える者たち(フローズン)だが……」


 凍える者たち(フローズン)の名前を出した瞬間、静かだが穏やかな空気を放っている酒場が一瞬にして時が止まり物音一つなくなった。



「レ、レーズン美味しいですよね!」



 ヴィリアが大きな声で言うと、少しずつまた周囲からざわめきが戻った。


「レーズンって何だ?」


 こいつ……頭を抱えたくなったレーグはグッと堪え、ヴィリアへ謝罪をする。


「大きな声で出すもんじゃなかったようだったな。すまない」

「い、いえ。私もきちんと説明してませんでしたから……」


 相変わらずわからないヴァンは頭からハテナをいくつも出していた。


「なるほど」


 何がなるほどかわからないが新しいエールをぐびぐび飲んでまた注文をする。レーグはもはや意識からヴァンをかき消した。


 

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