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第三十六話

「ふん、ふ〜ん。おい、召使い。暇だからそこの川に入って、口で魚を捕まえてこい」


 幌の上で日向ぼっこしていたカーミレイがご機嫌に口笛を吹いていたと思うと、突然無理難題をアルトリートに命令した。


「……なーに言ってんだ? このロリババアは……見た目じゃなくて、とうとう頭の中までイカれちまったのか?」

「あ? なんか耳障りな言葉が聞こえたが、気のせいかのお?」

「い、いえ……なんでもなりません」


 アルトリートが小声で言ったはずの言葉にカーミレイが低い声音で聞き返すと、すぐになんでもないと言って肩を落とす。


 アルトリートはぐったりしながらも馬車の前部で手綱を引いていた。アルトリートの間抜けな姿に馬車の横でトコトコ歩いていた白馬が、歯茎を剥き出しにして「ブルルっ」と唾を吹きかける。


「うわぁ! お前、何しやがる!」


 そんなのんびりとした旅路にあくびが出そうになった。俺はそれを噛み殺し荷台に肘をついて外を眺める。金色の麦畑が絨毯のようにどこまでも果てしなく続いていた。小さな風によって収穫時の麦たちが軽くしなる。


 馬車の横には澄み切った綺麗な一本の川があり、そこを辿るようにして進んでいた。


 和やかな風景に少しずつ目蓋が重くなっていると、また吸血鬼の真祖であるカーミレイがアルトリートに絡んでいる声が聞こえてくる。俺は彼らのやりとりに苦笑して目を擦り背筋を伸ばして眠気を飛ばす。


 君たち本当、仲がいいよね


 いつもならグラムも突っ込みを入れるか茶々を入れるはずなのに、今黙っているのはわけがある。グラムが俺にだけ話しかけてるはずなのに、カーミレイが瞳孔を開いたまま首だけこっちに向けてくるからだ。


 もし夜中だったら大声をあげて悲鳴をあげるね


 というかカーミレイさんの首どうなってるの? 首だけ百八十度回転したときなんて、直前まで俺と話をしてたアルトリートが口をパクパクしてたし……


 グラムもびびったのか今ではカーミレイが近くにいる時はずっと黙っている。口から生まれてきたと魔王笑さんはずっと黙っているのが苦しいのか、うずうずしてるのがわかる。というより剣の縁がガタガタ言っててうるさい。


 というかどうなってんだこれ!

 紐で固定させてもカチカチ言うし、びびってんなら動くな!


 俺がグラムにむかむか腹を立てていると馬車が止まった。


「おやぁ? 珍しいのぉ……」


 優しそうな年配の女性の声が聞こえてきた。窓から顔を覗かせるとおばあさんは麦わら帽子を上げてニコニコしていた。


「どうも、婆さん」

「珍しいのぉ……」

「そうだな」

「珍しいのぉ……」

「あぁ」

「珍しいのぉ……」

「え、えーと」


 アルトリートが何とも言えない顔になってカーミレイに助けを求めるがそっぽ向かれる。


「珍しいのぉ……」


 NPCかよ!


 アルトリートは涙目になって俺を見てきた。

 俺は心の中でため息をこぼして代わりに会話をする。


「こんにちは。おばあさん、私たちはエヴァンス辺境伯の元へ目指しています」

「珍しいのぉ……おや、エヴァンス辺境伯かい?」

「はい」

「珍しいのぉ……しかし、この先に辺境伯様のお家なんてあったかのぉ。精霊様が座す湖しかなった気がするがのぉ」


 え?


「精霊様、精霊湖のことか?」

「おや?」


 アルトリートが驚いて声に出すが、おばあさんは俺に近づいてくる。


「先代の皇帝陛下にどことなく似てるねぇ。久しいのぉ……」

「先代の皇帝陛下と会ったことが?」

「そうじゃよぉ。あたしがうーんと幼い頃、先代の皇帝陛下がここを通っていたんだじゃよぉ。精霊様が座す湖に向かってたのを今も思い出せるのぉ。とてもとても綺麗な馬車とたくさんの騎士様と一緒にのぉ。珍しいのぉ……」


 おばあさんは何度も深く頷き、感慨深い顔で俺を見つめる。


 カーミレイが幌から飛び降りてチンピラみたいにお婆さんに眼を飛ばす。

 アルトリートはすかざす馬車から降りて後ろから羽交い締めにしてやめさせようとするが、カーミレイが放った後ろ蹴りが綺麗に股間に当たって悶絶する。


 お婆さんはカーミレイをニコニコして見ていると、カーミレイが根負けして毒気を抜かれたように両肩を上げる。

 カーミレイは地面から花を抜いてお婆さんの麦わら帽子に突き刺して、また幌に飛び乗った。


 今更だけど、吸血鬼って太陽が苦手とかじゃないの?

 いや、まぁ今更だけどさ……普通に日光浴してるし。


「ど……うする? エイン……セル」

「そうですね。ここまで来たのであれば、一度精霊湖に寄って見ましょう」

「り、りょう……かい」


 アルトリートは脂汗を流しながら馬車に乗り、ぷるぷる手を震わせながら手綱を振り下ろす。


「ありがとうございました。おばあさん、お体にお気をつけて」

「珍しいのぉ……またすぐ会おう、天寵の忌み子」


 ん?


 俺のスーパーイヤーでも最後に何を言っていたのか聞き取れなかった。

 カーミレイも特に気にしてなかったので、俺は気のせいだと思い考えるのをやめた。

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