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第三十四話


 ある程度の距離まで近づくと元凶達の姿が見えた。


 童女のような可愛いらしい女の子と黒い鎧を身につけた男性が、厳ついフルフェイスを被った修道女と戦っていた。

 尋常じゃないほど凄まじい量の魔法と戦技がいくつも飛び交っている。


「なんだ……あいつら」


 アルトリートは常軌を逸した攻防を見て思わずつぶやき、俺も心の中で同意する。


 その時、鈴を転がすような声がここまで響いてきた。


《昏き月よ、一木一草に至るまで死に給え》


 地面からいくつもの杭が生えてきては周りに転がっていた死体を吸収していく。修道女は杭を避けながら距離をとって口を開いた。


「堕騎士と件の亜人を発見。滅します」


 突然方向を変えて俺たちに突っ込んできた。


「やっぱりか! くそがぁぁ!」


 アルトリートは剣を抜いて魔法を唱える。


「《堕ちた騎士たちよ、真実を映し出せ》」


 俺もそれに続いて魔法を唱える。


「《風よ、暴風となれ》」


 アルトリートの魔法で修道女はまるで縫い付けられたかのように固まり、俺の魔法で修道女が飛んでいった。


 あれ?

 案外弱かった?


 俺がそう思ったのも束の間、飛んでいった修道女は空気を蹴るようにして俺たちに再び突っ込んできた。

 アルトリートは俺を庇うようにして前に立ち、剣の鞘で防御をする。


「ぐぅぅ‼︎」


 アルトリートがなんとか堪えている横から俺はグラムを引き抜いて修道女を切りつけた。


「普通ではない痛みを感知。発生源は――聖剣?」


 グラムの攻撃を受けた修道女は一気に離れ、機械のように言った。


 やっべ、ばれた。


 修道女はフルフェイスの中から赤い二つの光を輝かせた瞬間、修道女が吹き飛ぶ。


「ほう、聖剣か? また懐かしい物まで来たのお」


 修道女が吹き飛んだと思えば遠くにいたはずの童女と男性が横にいて、童女がグラムをまじまじ見ていた。


『思い出したぞ‼︎ カーミレイとその下僕どもだ‼︎』

 ――配下か?

『違う‼︎ いつもワシ達を引っ掻き回したムカつく年寄りの吸血鬼共だ‼︎』


 は、はぁ


「初めまして、私はエルフのエインセル。そして彼は元聖騎士のアルトリートさんです」

「ほほう。礼儀正しいのは好きじゃ。妾は真祖の吸血鬼カーミレイ、こやつは吸血騎士のジルトリーじゃよ。半分だけじゃがハイエルフのエインセル」


 ぎくっ!


 童女のカーミレイは色気が漂う笑顔を浮かべながら俺を見上げる。


『まだ生きていたのかクソババア‼︎ すぐに逃げるんだ、相棒‼︎ こいつらは厄介だぞ‼︎』

「むぅ? 今、何やら……」

『何っ⁈』


 グラムの声がまるで聞こえたかのように童女はグラムをねちっこく見た。

 グラムは慌てて口を閉じる。剣なのに口を閉じるという行為に疑問を覚えたが、とりあえず置いとく。


「まぁ、それはいいとしてお主らはどうやって妾の領域にきたんじゃ? 入れぬようにしてあったはずだったがのお……」


 俺が知りたいです。


「あ、あぁ、俺たちもわからないんだ」


 真祖の吸血鬼と言ったカーミレイが可愛らしく顔を傾けていると、いくつもの魔力が飛んでくる。

 それを横にいた吸血騎士のジルトリーが体から何羽もの蝙蝠を出して俺たちを守る。


 あ、ありがとう?


「第一目標、聖剣の奪還」


 ジルトリーと修道女が肉弾戦で殴り合いを始めた。だと言うのにカーミレイは欠伸をしながら呑気に喋る。


「めんどくさいのお。お主らも手伝え」


 え、えぇ。

 こんな状況で欠伸ですか?


「元の世界へ戻してくれるのであれば」

「はぁ、しょうがないのお」

「ありがとうございます」


 俺が手伝うことを承諾したのをアルトリートがギョッとした顔で俺の耳に口を寄せる。


「おい、エインセル……」


 やめて!

 お耳は弱いの!


「本当にそいつらと一緒に戦うのか? 頭から人間をぶっ刺してるイカれたやつらだぞ」

『ワ、ワシもそう思うから放っておいていいと思うぞ』


 グラム……お前もか!


「むぅ?」

『ハッ!』

「私はもし……いえ。私はただ手助けするだけです」


 危ない危ない、つい本音が出るところだったぜ。

 もし助けたらそのすごい幻影魔法を教えてくれるかもしれないからな!

 それで賢者レベルが上がるなんて思ってなんかないぞ!

 本当だぞ!


「今気づいたがお主……人間だけじゃなく魔人とそれに……くくく、面白いのお」


 カーミレイはそう言って飛び上がり、くるくる回転して修道女に回し蹴りをした。修道女は飛んでいくが、やはり空中で体勢を戻し飛んでくる。


「はぁ……めんどくさい、めんどくさいのお。もういい、新しい玩具を見つけたしジルトリー。喰らってもいいぞ」


 カーミレイのその言葉と同時にジルトリーの体が膨張し、スライムのように修道女をパクッと喰らった。


 つ、つっよ。

 俺たち必要なくない?


「き、吸血騎士がこれほどの力だと?」


 アルトリートが目を開いて驚いた。

 それを見たカーミレイは両手を腰に置いて、ぺったんこの胸を突き出すように張る。


「ふん。当たり前だ、人間。そこら雑多にいる吸血鬼もどきと違うんじゃよ」


 すっごい嬉しそう。


 吸収し終わったジルトリーが戻ってきたが、なぜか苦しそうに体を悶える。


『相棒‼︎』

「むっ?」

『ハッ!』


 アルトリートもそれに気づきカーミレイを突き飛ばして体を広げて俺たちを庇う。

 一面に炎と大量の血液が飛び散った。紅蓮の中から燃えている修道女が歩いてくる。


「吸血騎士の力を下方修正」


 アルトリートの身体は焼け爛れていた。


「ふん。人間、お主が守らずとも妾は攻撃を喰らわぬというのに……」


 死にかけてるアルトリートを見てカーミレイは辛辣に放つが、どこか嬉しそうにニヤッと笑った。


「だが、その見上げた根性よし」


 カーミレイは両手を大きく開き、掌から魔力を放出する。


《堕ちた月よ、全てを包み込む泥土を》


 空から大量の泥が降ってきて俺たちを包み込ん……だ。






 目を開くといつのまにかぼろぼろの屋敷の外で立っていた。


 ど、どういうこと。


 目の前の塀の上で足を遊ばせているカーミレイがいた。

 チラッチラッ、ワンピースの中が見えてくるはずなのに、謎の黒いモヤのせいで中は見えない。


 いや、別に見たいわけじゃないんだけどね。

 俺は豊満なお姉さんが好きなんです!


 言い訳しながら周囲を見ると、焼け爛れていたはずのアルトリートが上半身裸で寝ていた。


「アルトリートさんの傷が……」


 それを見て思わずつぶやくとカーミレイがつまらそうに答える。


「さっきの魔法でついでに治しただけじゃよ、エインセル」


 す、すごっ。


「代わりとなってしまいますが、ありがとうございます。カーミレイさん」

「ふん。本当変わったエルフじゃのう。人間といるだけじゃなく、吸血鬼である妾に感謝するとは」


 カーミレイは嬉しそうな笑顔を食いしばりながらぶっきらぼうに言った。


 バレバレですけど


 呆れたが俺はすぐにハッとなって修道女を探す。


「他の人たちは?」

「ん? ジルトリーなら折檻として魔界に戻したぞ」


 ま、魔界?


「いえ、ではなく」

「あぁ。あの珍妙な格好したやつか……忌々しいが妾の世界に封印した」


 そ、そうですか。

 俺にもその強い魔法教えてほしいです


「ふわぁ……あん? なんで俺、上半身が裸になってんだ?」


 カーミレイはペロリと唇を舐めて妖艶に笑う。


「ようやっと、起きたか。妾を世界から出した責任を取ってもらうぞ、お主ら」


 その光景に俺はブルッと震えた。


 け、賢者に強い童女がいても変じゃないよね、うん。

 決して逃げられないと思って降参したわけじゃない‼︎




 街に戻るとゴーストタウンと化していた。


 えぇ、どういうことよ


「ぶるる‼︎」


 驚いているとゴーストタウンの中から白馬が走ってきてアルトリートの髪の毛を毟ろうとする。


「いたたた! やめろ!」

「ほう、美味しそうな馬じゃな」

「ぶるるっ‼︎」


 カーミレイの言葉に白馬は仰天したかのようにアルトリートの背に隠れた。


「こいつは食用じゃないぞ!」

「ぶるる‼︎」


 白馬も同意するように言うとカーミレイはつまらなそうな顔をしてトコトコとゴーストタウンを歩く。それについていくとアルトリートが酒場に紙が貼られていることに気付く。


「ん?」


 すぐにアルトリートの顔は苦々しい表情になって、はぎ取ると俺に渡す。


「ちっ。ベルのやつめ、わかってたのか……」


 紙には「報酬は聖騎士に密告しないことよハート、追伸聖騎士が何人もやってくるから早く逃げてねダーリン」って書かれてあった。


 俺は思わず遠い目をした。

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