第三十三話
むしゃむしゃむしゃ‼︎
日が当たる上等な席でサラダをムシャっていると、スリットが入ったワンピースを着たお姉さんが近づいてくる。
ん?
顔を上げると目がぱっちりで泣きぼくろが特徴的なお姉さんがいた。
「久しぶりね」
誰ですか?
「あら、あんなにも熱い日々を過ごしたって言うのに無視するの? アルったら……」
あ、俺じゃなかった。
アルって誰よ。
お姉さんは赤い舌をチロっと出すと、唇を舐めながら、流し目で俺を見た後アルトリートに顔を向けた。
あぁ、アルってアルトリートさんのことね。
……えっ?
アルトリートはその女性が見えていないかのように無視して、ジョッキを掴んでグイッと酒を一気に呷る。
それを見たお姉さんは谷間を強調してアルトリートの肩にしなだれた。
うっひょー!
「ふーん。無視するなら無視でもいいけど彼らに教えちゃうわよ? アル」
「ふぅ……」
アルトリートはため息をして降参したかのように両手を上げた。
「それで、いったいなんのようだ? <密告屋>ベル」
「あら、そんなあだ名を言っちゃうイケナイお口はこれかしら?」
お姉さんはそう言いながらアルトリートに口を近づけ、激しいキスをおっぱじめた。
『何してるんだ……このバカどもは』
どんどん激しくなり密告屋と呼ばれたベルはアルトリートに跨りながらキスを続けた。
周りの冒険者達がそれに気づくとザワザワして食い入るように見る。
俺も食い入って見ていた。
お姉さんは口から少しずつずらして頬へキスを何度もして耳に近づける。
「アル。堕騎士になったらしいわね? 異端審問官と聖騎士が血眼になって追いかけてるわよ」
当然、俺のハーフハイエルフイヤーはそれを捉えていた。
なるほど、だからアルトリートさんと出会った時、切羽詰まったように急かしてきてたのか。うん?
待てよ……もし見つかってたら、俺まで追いかけられる羽目になってったってことだよな?
ふざけるな!
「もし、追ってをどうにかして欲しいなら、手伝って欲しいのよね……そこで盗み聞きしてる亜人の可愛らしい子にもね」
なぬ⁉︎ ばれただと⁉︎
お姉さんはアルトリートから降りて周りに見せつけるように谷間に指を入れる。
「ひゅー!」
「ひゃっはー!」
「ふぉぉぉ!」
うおぉぉ‼︎
周りから野太い歓声が上がり、一枚の紙を取り出して机の上に広げた。
「本当は外にいる傭兵団に魔獣退治の依頼をしたはずだったんだけど。アルがのしちゃったせいで使い物にならないのよね。だから、よ、ろ、し、く、ね」
『全く人間どもは……』
はっ⁉︎
お、俺はいったい何を……
街から出る時に衛兵や冒険者に絡まれるかと思いきや、アルトリートを見るやすぐに顔を背けていた。
特段何もなく目標の場所に到着して俺は固まった。
な、なにこれ。や、屋敷だよね?
ぼっろぼろだけど……それともこれが今のトレンドですか?
「……えらい前衛的だな」
あっ、違った
『む?』
――どうした?
『どこか、知っている魔力が……』
――魔力?
『あぁ……』
そのいちいち、ためて黙るのやめてくれません?
ムカつくんだけど
「どうした? エインセル」
「少し……」
クソグラムめ!
アルトリートに心配されちゃったじゃないか!
なんとか誤魔化して、アルトリートは俺を見て「そうか」と言って屋敷へ入っていった。
無用心過ぎません?
と、言いつつも俺もついていく。
「お?」
『むむ』
おん?
アルトリートが屋敷へ入り俺が踏み込んだそのタイミングで周囲が歪み、一気に風景が変化した。そこは何もない焼け野原の真ん中にいて天には赤い満月が爛々と光っている。周囲には頭から杭を生やした人間らしきオブジェクトがいくつも置いてあった。
す、素敵ですね。というかまた転移ですか?
『幻影魔法で隠していたのか……しかもかなり大規模な』
違った
「めんどくさそうな匂いがプンプンするな……ベルのやつ魔獣関係って言っていたが、そんなレベルを越してるぞ。ふざけやがって」
アルトリートはポケットから紙を取り出してビリビリに引き裂く。それはもう親の仇のように。
「戻ったらヒィヒィ言わしてやる」
俺も加わっていいですか?
周りを索敵するが何もなく、どうするかアルトリートと相談していると遠くから尋常じゃない魔力と爆音が響いた。
「なんだ……この馬鹿げた魔力は。いや、待て、聖騎士……違う審問騎士の物か?」
俺も慌ててそっちを見た。確かにイカれた魔力の主と以前アルトリートが使っていた魔力に似ているがどこか変質した魔力が放たれている。
「審問騎士?」
「あ、あぁ。聖騎士を駆る聖騎士みたいなもんだ。審問騎士って呼ばれて、俺が追いかけまわされたやつたちだな」
「なるほど」
よくわからん。
前に説明した時は追いかけられたって言ってなかったよね。
「争っている? みたいですね」
「あぁ。面倒だが行かないと出れないし……ちっ、いくか」
「はい」
『うーん……』
なぜかグラムは一人うんうん唸っていた。




