第三十一話
ほげぇ……お、おっきぃ
俺は立ち尽くし、固まって見入ってしまっていた。
べ、別にやましい物じゃないよ?
ただ立派な洞穴があっただけだよ!
「なんだここ?」
なんだここって大きな洞穴でしょ……
それこそ賢者になれそうな立派な洞穴がっ‼︎ ……うん?
アルトリートの声に心の中で反論したがすぐに猛烈な違和感を感じた。
目を凝らして見ると、何かが洞窟の中から漏れている。
「魔力……? でしょうか?」
「あぁ。でもこんな場所あったなんで聞いたことないぞ。しかもこんな大きさ……一朝一夕にはできないはずだ。それとも淵なる者か?」
アルトリートはぶつぶつ言って、警戒しながら白馬から降りた。
『淵人ではないな』
――そうなのか?
『うむ』
いや、うむじゃないがな。
なんでそう思ったか教えてくれませんかねぇ……
グラムへ追求しようとしたが、アルトリートが袋から魔道具を取り出してガチャガチャしたので意識を向ける。
「いや、違ったな。淵なる者でもないし亜人もいないようだ」
『ふん。ワシもわかっていたわ。クソ人間め!』
「それは?」
「探索用の魔道具でな。聖騎士が亜人狩りと淵なる者を見つける時に持たされるやつだ」
こわっ。そんな物持たされるの?
神聖国はどんだけ亜人憎しなんですかね……?
絶対そんなところに行く機会はないな。
フ……フラグじゃないよ?
アルトリートは魔道具を袋に放り込み、白馬に括り付けると尻を叩いた。
「そこらで時間潰しとけ」
「ぶるる‼︎」
白馬は大きな鳴き声を上げ近くの草むらに入っていった。
あのお馬さんが実は転生者だと言われても俺は驚かないぞ……中におっさんがいそう。
クチュッ――頭の中で、実家にいる契約した妖精に似たくしゃみが聞こえたが、気のせいだろう。
うん、気のせいだ。
「どうした? エインセル」
「いえ」
突っ立って馬鹿なことを考えている俺にアルトリートが心配そうな顔で声をかけてきた。
「ん? 大丈夫か?」
「はい」
「ならいいが」
問題ないと言うと、アルトリートが先陣を切るようにして足を動かす。
顔だけじゃなくて性格もいい人かよ。
なんでこの人、聖騎士なんてやってたの? ますます疑問なんですけど。
アルトリートは警戒しながらゆっくりと洞穴の入り口へ足を踏み入れた瞬間、目の前からかき消えた。
え?
突然のことにびっくりし周りをキョロキョロするがどこにもいない。
しかも、周囲一体からアルトリートの魔力も消えている。
『幻影魔法? いや――転移魔法、次元魔法だと⁉︎』
ど、どういうこと?
『ちょっと待ってくれ、相棒。少し解析してみる……あっ!』
グラムに引き止められる前にすでに洞穴へ足を入れてしまい、一瞬で目の前の景色が一変した。体にモワモワと言いようがない魔力のような変わった物が通りすぎる。
遅いよ。
もっと早く言ってくれない?
「エインセル!」
「アルトリートさん大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫だ。だが驚いたよ。足を入れただけで妙なところに飛ばされたと思ったら、後方からエインセルの気配も消えて……しかも出れないときたからな」
アルトリートがポリポリ頭を掻きながら苦笑いをする。
『相棒……』
グラムから恨めしい声が聞こえるが黙殺する。
俺のせいじゃない!
お前が遅いからだ!
「少し周りを見たが誰もいなかった。しかも数年どころじゃなく相当な年月、誰もいないようだ」
アルトリートはそう言って無用心に周りを散策をする。俺はその後ろをヒョコヒョコ後をついていき、周囲を見渡す。
ほげぇ……なんで塔が逆さまになって浮かんでるんですか?
大きな国に生えてそうな塔が六芒星を描くようにして宙で逆さまになって浮いていた。
な、なんで巨大な銅像からすっごい魔力を感じるですかね?
その中央にある巨大な不気味で美しい女神像からは莫大な魔力が発せられていた。
い、意味がわからないよ……
アルトリートはそのことについて特に何も言わず、その辺に落ちている石を拾い上げたり壁をさすりながら進んでいく。
今いる場所は高所のようで道を外れて下を覗くと何もない真っ暗な奈落だけがあった。
「古代都市――本当にあったとはな。眉唾物だと思っていたが、どうしてこんなところに?」
『ふん。そんなこともわからないのかクソ人間め! 相棒のおかげだ!』
――どういうことだ?
『ふっふっふ。よくぞ聞いた! 相棒が鍵となって転移したんだぞ!』
へぇー、俺って鍵だっただね。
いや、意味がわからん。もっときちんと説明しろ。
「あっ」
石ころに躓きかけてしまう。すぐに体制を戻しゴホンッと言った。
アルトリートはクツクツと俺を笑ったが俺は無表情を装う。
き、気のせいだよ!
石ころの方はと言うと坂道をコロコロ転がっていった。そのまま奈落へ落ちていくかと思いきや、完全に重力を無視した動きをして浮かび上がり遠くに浮かんでいる逆さ塔にくっついた。
「何をした?」
俺が聞きたいです。
本当に。
『流石、相棒だ! すぐにあの塔の鍵を見つけるとはな!』
ま、まぁな。
その時、逆さ塔から光が溢れ出した。それと同時に俺たちのいる足元に六芒星で描かれた巨大な魔法陣が形成されていく。
アルトリートは即座に背中から剣を抜き出し、俺もグラムを掴んで警戒する。
少しして巨大な女神像から大きな魔力塊が飛び出し、俺たちの頭上に来ると大きく虹色を放ち破裂した。
やっば‼︎
俺は防御魔法を唱えるがなぜか発動せずバラバラになって空中に吸収される。横目でアルトリートを見るが、同じように魔法を唱えたのか魔力が吸い込まれていった。
唖然としていると巨大な女神像からいくつもの魔力塊が飛んでくる。
それに呼応するように俺の指輪と六芒星が輝く。
「なんだ⁉︎」
目を閉じても眩いほどの光を放ち、意識が消えた。




