第三十話
「エインセール! そっちいたかー?」
ヒュッと鋭い音を立て、矢が野兎を射抜く。
「いました」
野兎に近づき、これ以上苦しまないように首に剣を差し込んで即死させた。聖騎士から堕騎士になったと言う騎士の人が俺のそばにやってくる。
「流石、森育ちだなぁ」
「アルトリートさんこそ」
「まぁ、俺はこう見えてガキの頃は野山を駆け回っていたからな」
汚らしい鎧を身につけた色男が苦笑しながら俺に答えた。その背中には大きな猪を担いでいる。
気障ったらしく去っていったアルトリートと言う名前の騎士は教会で真摯に全てのことを報告したら、亜人と手助けをしたということで破門を受けたらしい。そのままだと処刑される可能性があると神父からこっそり教えてもらい、アルトリートは神父に感謝をして愛馬と共に森へ入ったところ俺と出会った、ということになっている。
妙にしんみりとして伝えてきたが、途中何度も咳き込んだり吃っていたことに俺は気付いていた。
絶対嘘だろと思いながらも話を聞いていくと、なんでも破門されたと同時に今までずっとあった亜人への憎しみも消えたらしい。
多分ここだけ本当だと思う
おそらく聖騎士に任命された瞬間に何かを植え付けられたのではないかとのこと。とりあえずそれは置いとき、ここら辺の地理に詳しいって言っていたので俺は南西方向へ行きたいと告げた。
アルトリートに案内してもらっていたはずなのに山の中で野人生活二週間目に突入しています。
なんで?
「そっち行ったぞー!」
白馬に乗った汚い野人が魔獣を猟犬のように追い回す。
進路方向に俺がいるのにも気にせず迫ってきていた。
いったぞー! じゃないよ、まったく。
はぁ……
『来たぞ、相棒! ついでにあのムカつくクソ人間もコロコロするぞ!』
俺は闘牛士のごとくグラムを魔獣の額に突き刺して横に避ける。
グラムを差し込む瞬間、グラムが何かギャーギャー騒ぐが無視した。
「流石だなぁ」
同じことしか言えないNPCですか?
毎回、仕留めるたびに同じフレーズしか言わないよね
俺が呆れている横目に、額にグラムを装飾した魔獣が大木の幹に足を引っ掛け倒れた。
一度小さくため息をして魔獣の元に行き、グラムを引き抜く。
『うぉぉ‼︎ ワシの魔王としての力が更に上がるぞぉぉ‼︎』
うるさっ
「ずっと思っていたがその聖剣、あまりにも禍々しくないか?」
そうだよね……俺もそう思うよ。うん⁉︎
「わかるんですか?」
勢いよくアルトリートに顔を向けて聞いた。
「うん? ま、まぁわかるんじゃないか? 明らかに魔獣の血と魔力をすごいスピードで吸い上げてるしな」
なぬ⁉︎
俺以外に気付いていた人がいたなんて
『なんだと‼︎ ワシを禍々しいだと⁉︎ ぶちのめすぞ、クソ人間が‼︎』
――静かに
『なっ! どうしてだ、相棒!』
バカグラムを静かにさせてアルトリートの話に耳を傾ける。
「聖剣だと聞いた時は驚いたが、一緒に旅してから確信に変わったよ」
「はい」
「魔獣を殺すたびにどんどん力を増しているからな。見た目はどこか目を奪われるから最初はエインセルが何か幻術の類を使っているのを疑ったがその気配もないし、その聖剣の特性だろ? とにかく神聖国のやつらの前ではあまり使うなよ。ただでさえ亜人を嫌っているのにそれを見たら何をするかわからん」
と、特性?
――そうなのか?
『ぷ、ぷふぃー』
グラムが下手くそな口笛を吹いていた。
――……
俺の沈黙に耐え切られなくなったグラムが言い訳する。
『ワ、ワシも好きにやってるわけじゃないぞ。そ、そう、あの人間の言葉通りだ! この聖剣が勝手にしてるんだぞ! だからワシのせいじゃないぞ、相棒!」
どういう言い訳だよ……酷いにも程があるぞ
指で眉間を揉み、息を吐く。
――なら、魔獣の力を吸っているのも聖剣のせいか?
『ご、ごほんごほん。ワシなんだか風邪引いちゃったみたいだ。ち、ちょっと休暇をもらうぞ、相棒!』
ぐ……まぁいい。
話をまとめるとこの聖剣カッコ仮は持ち手以外に見た目を擬態する能力があって、魔獣の力を吸っているのはクソグラムのせいってことか。
いや、まとめる必要もなかったな……
確かに父さんと母さんも血管について言及していなかったし……
「わかりました。ありがとうございます」
「おう、気にするな。旅は道連れ世は情けって言うだろ?」
アルトリートは白馬の上から無駄に白い歯をキラっと輝かせる。体が汚れているせいで余計にそこだけ目立った。
「……はい」
いくらカッコつけても、遭難して野人生活二週目突入しているのは許さないからな‼︎




