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第二話

「エインセル。お前が書斎に篭ってコソコソしていたのを知っていたぞ。だがな、その程度で俺がやられると思うなよ?」


 父さんがキリッと顔を決めながら俺に言ってきた。


 ぐっ、ムカつく顔しやがって今に見てろ、ただじゃ終わらせないぞ。

 初めて戦った子供に砂袋を投げつけ、挙句に関節技を決めたのは忘れてないからな!


 俺はメラメラと闘志を燃やしながら父さんを睨みつける。

 その際にこっそり身体能力を上げる魔法を唱えた。


 父さんは俺の魔法を見て驚いたがすぐに目を細め、わざわざ聞こえる音で「フンッ」と馬鹿にしてきた。

 ものすごくイラッとしたが、一度深呼吸して落ち着かせる。


 あっ、だめだ。

 まったく落ち着かない。

 すっごいイライラする。


 俺の身体から大量に怒りの魔力が噴き出る。

 なんとか落ち着かせようと目を閉じて開けた瞬間、目の前に砂袋が飛んできていた。


 いきなりかよ!


「《風よ、舞い上がれ》」


 風魔法を唱え、砂袋を父さんの方へ返してやる。

 父さんは木剣を振り上げ、砂袋を地面に叩きつけた。

 砂袋は破けていないはずなのに辺り一帯に砂塵が巻き起こる。


 馬鹿め、脳筋が!

 俺が砂袋だけに風魔法を唱えたと思ったか!

 地面にも唱えてたんだよ!


 砂ぼこりで視界が悪くなった中へ俺は木剣を投げつけ、火魔法を唱える。


「《火よ、焼き尽くせ》」


 丸焼きにしてやるぜ!

 ヒャッハー!


 父さんがいたところに砂塵と混じり合った火炎が巻き上がる。

 俺は距離を離し目を凝らして見るが父さんはすでにそこにいなかった。


 クソ! どこに逃げやがった!


 キョロキョロ探していると突然後ろから足技を受け、前のめりに転倒する。


 ぐっ‼︎


「流石は俺の息子だ」


 普通なら殺されそうになったら怒るはずなのに、父さんは獰猛な笑みを浮かべながら俺に関節技を決めてきた。


 イタイイタイ、イタイ『ごめんなさい』パパン‼︎


 俺の魔力を見た父さんは関節技をやめて、俺の頭にゴツゴツした手を置いた。


「悪くない作戦だったぞ。ただ、いきなり焼き殺そうとするのはいただけないがな。まぁ、お前も俺の息子だ。闘争本能は抑えきれないんだろう」


 ジト目で見るが父さんは苦笑しながら俺の髪をくしゃくしゃにする。


 やめろ!

 せっかく整えた髪がぐちゃぐちゃになるだろ!


 俺の心の内を透かしているのか、嫌がらせのように更に手に力を入れてきた。


 その時、俺たちの背後から凍えるような恐ろしい魔力が吹き荒れていた。

 俺と父さんはギギギッとゆっくり首を向ける。


「……何を……している……ですか?」


 そこには般若のような魔力を出している母さんがいた。


「あ、あー。うん、エインセルあとはよろしく‼︎ ルーシィ、俺は夕飯用の狩りでもしてくるから‼︎」


 父さんはシュパッと手を上げて一目散に森の方向へ逃げて行った。


 母さんはゆっくりと近づいてきて俺の頭を軽く拳で小突く。

 そうして屈むと俺と同じ金色の瞳で見てくる。放っている魔力はとても悲しみに満ちていた。


「……エインセル。あなたも……男の子……けれど……自然は……大切」


 母さんはエルフだ。

 俺が引きこもって書斎にいた時に読んだ本で名前を知った。


 この世界のエルフには感情がない。

 いや、厳密には感情はあるが表情だけではわからない。余程魔力に長けた種族じゃないと、感じ取ることができない。それゆえに多くの種族からは無機質な生物だと思われている。


 ただし父さんは例外だ。


 無機質に見える理由として大陸全土で起こった太古の大戦のせいだと思う。多くのエルフは死に絶え生き残った者の多くは奴隷となり迫害された。一部、逃れたエルフは身を守るために<魔の森>に隠れ潜み、魔力を介して意思伝達するようになる。


 長寿のエルフですら何度も代替わりするほど時が流れ、エルフは感情と表情の動かし方を忘れた。それが良いと言えるかわからないが、大陸の覇者となった人間からは御伽話の中の種族として描かれるようになる。


 そのため長い時を森の奥深くで暮らしたエルフは森を愛し、森を感謝しているだけに火魔法を毛嫌いしている。


 そんなことを思い出しながら俺は母さんに謝った。


「ごめんなさい」


 母さんは力強く俺を抱きしめる。


「……いいえ。あなたも……レオと……同じ男の子」


 俺はまた母さんを傷つけてしまったことに後悔をした。


「……自然……愛して……私たち……最後……居場所」


 エルフはすでに再起して戦うことを諦めていた。何も欲さずただ自然と暮らす。それが種族として間違っていると知りながらも心が折れていた。


 その中でも母さんはエルフの中でも由緒が正しいハイエルフでも王族の一族だ。書物にはエルフは耳が長く碧い瞳で金色の髪色と書かれていた。母さんの瞳が黄金の色だったのでふと父さんに話を聞くとそれはハイエルフの証だと教えてもらった。その上、母さんは王族の末裔だとも言われた。


 母さんは昔のことを語らない。


 一度だけ興味本位に聞いて後悔をした。いつもは無表情なのにほんの少しだけ悲しい表情をしていたからだ。俺は焦りすぐに話題を変えて母さんの昔のことを聞くことを諦めた。


 その夜、神妙な顔でやってきた父さんの話は今でも覚えている。


 かつてのエルフは王族にただ従属していたが、長い時を経て隠れ潜んでいるエルフとハイエルフにすでに垣根はなく同じ仲間として暮らしていた。だが、母さんは生まれながら言いようもない焦燥感に駆られていた。エルフを世界に認知してもらい種族として認められないかと。成長した母さんは森から飛び出し魔法で姿を変え、何度も試行錯誤を繰り返したがだめだったらしい。

 大陸の覇者となった人間は人間以外の種族を全て亜人と一括りという考えが凝り固まっていた。そんな陰鬱に明け暮れた日々を過ごしていたとき、母さんは父さんと出会い恋に落ち、俺が生まれた。


 母さんはゆっくり俺を離すと腰に手を置いて俺の後ろを指差す。


「……後……レオ……一緒……治してもらい……ます」


 その方向には俺が火魔法を使った影響で燃えた植物たちがあった。


「……はい」


 母さんは俺の頭をひとなでして、猟犬のように父さんを追いかけて行った。俺は服の袖で汚れた顔をゴシゴシと拭きながら思う。


 死ぬなよ、パパン。


 母さんからはとてつもない怒りの魔力が発せられていた。父さんはやばいことになるだろう。

 俺はその光景を見て少しブルッと震え、いそいそとまだ生きている植物たちを治療する。


 決してちびってなんかない!

 決して!

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