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第二十六話

「カ、カッ……。これがかつて、魔王陛下を……討ち滅ぼした聖剣……か」


 心臓を突かれたというのにガビリの呼吸は止まらず、呟き続ける。


「我らの生は……無駄だったのでしょうか」

『……そんなわけないだろう』


 グラムは思わず答えた。


「あなたの力に……なれたでしょうか」

『……十分力になった、胸を張って誇れ』

「なぜ我らを……お捨てになられたんでしょうか」

『……すまぬ。ワシが弱かったせいだからだ』

「魔王陛下……今あなたの元へ……」

『……先に待っていろ』

「アァ……魔王陛下……魔王……ヘイ……カ」


 ガビリは少しずつ溶けてゆき、最後の一粒が消えると天高く登っていった。それに続くように砦のほうからも多くの光がガビリを追いかけていく。


『……安め。かつての子孫たちよ』


 グラムが懺悔するように祈るように言った。


「魔王陛下だと? ふざけるな」


 騎士は湿っぽい空気を変えようとしたのか、憎まれ口を叩く。


「ふん。少しはその減らず口を黙らせられないのかい? 野良犬のガキが」

「年増に言われたくないね」

「あぁ⁉︎」

「あぁ⁉︎」


 どちらも鼻を啜りながら口喧嘩を始めた。


 俺は空を見上げる。


 空からひらひらとゆっくりリング状の黒いが……どこか綺麗なピアスが二つ落ちてきた。

 俺は手のひらを出して取った。


『懐かしい。ワシがかつて豚鬼族に褒美でやった魔道具だ。あぁ……だからやつは』


 ウジウジするグラムにデコピンした。


 ――これはどういう魔道具なんだ?

『淵人の力を引き摺り出すことができる。その際に魅入られず、覗かれず……意識を保てる。ただし、尋常じゃない精神力があれば……な』


 そうか。だからガビリさんは長い間、耐え続けられることができたのか……


 俺は祈るようにして両手を組む。


 お疲れ様です、ゆっくり休んでください


「だから嫌だったんだ……面倒事ばかり」


 声の方を見るといつのまにか、兜を被って声を震わせた騎士がいた。


 口は悪いけど、意外と優しい人なんだね


「見逃すのは今回だけだぞ……亜人ども。時期に他の聖騎士も駆けつけてくる。他の気狂いの聖騎士が生優しいと思うなよ。本物の化物達だ……頭も腕もな」


 騎士は鼻を詰まらせながら口笛を吹く。


 ピュー‼︎ と甲高い音が響き、遠くから白馬が疾走してくる。騎士はそれに飛び乗り去っていった。


 失せろって言ったのに自分から去るの?

 謎なお助けキャラか、何かかな?






 チンピラーズや治療したり後始末をしてから俺はアンネに近づいた。


「アンネさん」

「あ、あぁ」


 なぜだかアンネはすごい動揺したかのように顔を赤く染める。


 どしたの?


「私は行きます」

「あ、あぁ……」

「私と祖を同じくするからこそ頼みます。彼らを匿ってください」

「うん? 匿う?」


 賢者見習いの俺に弟子など不要!


「お願いします」


 体をぐっと寄せてアンネの手を力強く掴む。


「あ、あぁ」


 ついでに顔も近づけると、なぜかアンネが顔を更に赤らめる。


「それとこれも彼らに。そうすれば少しは緩和されるはずです」


 グラムに文句を言われる前に物騒なリング二つを押し付けた。


「ふ、ふん。坊……エインセル! 今回だけだよ!」

「ありがとうございます」


 俺が感謝するとアンネは口をモゴモゴさせる。


「……北東に行きな! 奴らの噂はそっちにもあるからな! ただで教えるのは本当に今回だけだよ!」


 さっすがアネさんだぜ!

 北東ね! りょうかい!


「アンネさんたちも道中お気をつけて」


 ふっふっふ……その逆方向に行けば安全ってことだな


 俺は心の中でニンマリと笑ってアンネたちから去った。


「アネさん、どうして嘘ついたんですかい?」

「何がだい?」


 バカなゲオがただでさえブサイクな顔をさらに歪めてアタイを見た。


「北東には何も……森しかないですよ」

「うっるさいやつだね。そんなこと百も承知だよ」

「なら、どうして」

「はぁ……エインセルは見た目通りまだ子供だよ、ハイエルフならそれこそ赤ん坊レベルのね。これ以上戦わせるのは酷ってもんだ」


 それでもゲオがじっと見てくるので、アタイはため息をして本音を告げる。


「南西は狂信者と吸血鬼の噂で、きな臭いからね。逆方向ならエインセルも大丈夫だろうし。願わくばこのまま森で幸せに暮らして欲しいね」

「さすがですぜ、アネさん」

「うるさい」


 ゲオを軽く小突き、プイっとエインセルが去っていった方向を見る。


 ……さようなら、小さき王様

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